透き通る季節の中で
 ベッドでうずくまっていたところ、携帯が鳴った。

 駿介からの着信。

 出たくないけど、出なければならない。



「もしもし」

「メールを見たよ! 急にどうしたの!」
 声が荒い。いつもの駿介ではない。冷静さを欠いている。それは仕方のないこと。何もかも私のせい。

 心を鬼にして話す。とにかく冷たく突き放す。ウソでも何でもつく。世界一の悪女になれ!

「メールで伝えたとおりだよ」

「それじゃ! わからないよ! ちゃんと理由を言ってよ!」

「ずっと二股してたの。駿介との付き合いは、ただの遊びだったのよ」

「咲樹は! そんな女じゃない! 会ったことはないけど! 俺にはわかる!」

「私はそんな女だよ。ずっと猫を被ってただけ」

「今から咲樹の家に行く! 直接会って話をしよう!」

「来ても無駄だよ。彼氏の家にいるから」

「そんなのウソだ! 絶対にウソだ! 何か言えない事情があるんだ!」

「事情なんて何もないよ。あんたに飽きただけ」

「咲樹! 目を覚ましてくれ! お願いだから! 優しい咲樹に戻ってくれ!」

「しつこいな! あんたはつまらない男なのよ! 岩手県でカモメと遊んでなさい! もう連絡してくるな!」

 電話を切って、スマホの電源を切った。ものすごい罪悪感がこみ上げてくる。



 ごめんね。ごめんね。嫌な思いをさせて、本当にごめんね。

 ああするしかなかったの。

 駿介のことは、今でも大好きだよ。

 早く良い人を見つけて、幸せになってね。

 十ヶ月間も、こんな私と付き合ってくれて、ありがとう。



 丸一日経ってから、スマホの電源を入れた。

 諦めてくれたのか、駿介からのメールは入っていなかった。

 これでよかった。これでよかったんだ。
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