透き通る季節の中で
 三月九日、水曜日。

 放射線治療が始まった。

 副作用が凄い。

 吐き気が酷い。

 口内炎が痛い。

 何も食べられない。

 睡眠薬を飲んでも眠れない。

 ろれつが回らない。

 体も頭も思うように動かない。

 苦しい。痛い。辛い。

 洗面器が真っ赤な鮮血で染まる。

 早く楽になりたい。



 四月三日、日曜日。

 桜が満開になった。

 無菌室の窓から桜を眺めた。

 デジタル一眼レフカメラで桜の写真を撮った。

 来年も、満開の桜を見られたらいいと思う。



 四月十五日、金曜日。

 治療の影響で髪が抜け始めてきた。

 枕が髪の毛だらけ。

 

 五月三日、火曜日。

 全ての髪が抜け落ちた。

 ニット帽を被った。

 

 五月十七日、火曜日。

 骨髄移植のドナーが見つかった。

 明るい希望の光。

 骨髄移植を受けることにした。

 まだ生きる望みはある。

 頑張れ自分!

 

 八月三日、水曜日。

 骨髄移植を受けた。

 失敗に終わった。

 唯一の希望が絶たれた。

 あとどのくらい生きられるのかわからない。



 十月二十九日、土曜日。

 入院から、丸一年。

 私はまだ生きている。

 久しぶりに体重を測ってみた。

 三十一キロだった。

 もう、私は走れない。

 ご飯もろくに食べられない。

 諦めたくないけど、諦めなければいけないのかもしれない。

 三十五歳が私の寿命。

 そろそろ、終活を始めようと思う。

 

 十一月一日、火曜日。 

 遺書を書いた。

 涙で濡れてしまったので、書き直した。
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