透き通る季節の中で
 死ぬ前に、どうしても見ておきたいことがある。

 最後の力を振り絞って、ベッドから起き上がった。

 病衣を脱いで、私服に着替えた。

 お財布を持った。

 看護師さんの目を盗み、無菌室から抜け出した。

 一階の売店で、かっぱえびせんを買った。

 タクシーに乗って、海に向かった。

 かっぱえびせんの袋を開けて、テトラポットの上に座った。

 大空を見上げながら、食いしん坊ちゃんの飛来を待った。

 今日は、十一月三日。

 まだ時期が早いのか、待てども待てども、食いしん坊ちゃんは飛んでこない。

 海風が冷たい。

 ただただ寒い。

 目が霞んでくる。

 吐血が止まらない。

 すごく苦しいけど、最期まで笑顔で。






 虚ろな目で大空を見上げていたところ、一羽の白い鳥が飛んできた。

 真っ直ぐに、私の方に向かって飛んでくる。

 その鳥の姿はどんどん大きくなっていく。

 食いしん坊ちゃん。確かに、食いしん坊ちゃん。

 今日も、大空を自由に羽ばたいている。

 甲高い鳴き声を上げながら、気持ち良さそうに飛んでいる。



 私は、羽ばたけなかったから。

 大空を自由に羽ばたいている食いしん坊ちゃんの華麗な姿を目に焼き付けた。



 私の周りを飛び回っている食いしん坊ちゃんに向かって、かっぱえびせんを投げてみた。

 ナイスキャッチ。

 本当に、かっぱえびせんのキャッチが上手。

 食いしん坊ちゃんと会うのも、これで最後。
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