透き通る季節の中で
第16章 笑顔
「店員さん、お茶をください」

「はーい。少々お待ちください」

「店員さん、注文いいですか」

「はーい。只今、お伺いに参ります」

「店員さん、生ビール、お代わりください」

「はーい。すぐにお持ち致します」

 シルバーウィークということもあってか、今日もお客さんが多い。

 若い男女のカップル。中年カップル。熟年カップル。

 女性三人組。男性二人組。陽気なおばさんたち。ツアー団体客。

 お父さんと息子さん。三人家族。四人家族。五人家族。

 次々と注文が入る。

 私は今日も大忙し。

「明日、縄文杉を見に行くんです」

「そうなんですか。晴れるといいですね」

「はい。店員さんは、縄文杉を見たことがあるんですか?」

「ありますよ」

「どうでしたか?」

「すごく大きいとだけ言っておきます。あとは、ご自分の目で見て確かめてください」

「はい。楽しみにしておきます。屋久島の紅葉はどうですか?」

「森の奥のほうは、だいぶ色づいていますよ」

「そうですか」

「はい」

 お客さんとの会話は楽しい。



「何かオススメはありませんか?」

「亀の手ラーメンはいかがですか。とても温まりますよ」

「どんなラーメンなんですか?」

「亀の手という貝が入っているラーメンです。見た目は少しグロテスクですが、実はとても美味しいですよ」

「じゃあ、亀の手ラーメンにします」

「僕も、亀の手ラーメンにします」

「あと、生ビールをください」

「かしこまりました。少しお時間が掛かりますが、よろしいですか」

「はい」

 私は、亀の手ラーメンはあまり好きではない。ちょっとしょっぱいから。

 でも、お客さんには勧めている。

 お店の売り上げに貢献するために。



「いつも言ってることなんだけど、そんなに頑張らなくていいのよ」

「いえいえ、お世話になっていますので」

「そうかい。本当に助かるよ」

 私が働いているレストランのおかみさんは、とても親切で優しい。

 厨房で鍋を振るっているおじさんも、とても親切で優しい。

 二人とも高齢なので、私を重宝してくれている。いつも私の体を気遣ってくれる。私を実の娘のように思ってくれている。

 私がここまで元気になれたのは、おかみさんとおじさんのおかげでもある。

 少しでも恩返しをするために、頑張って働くのみ。
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