透き通る季節の中で
「食べ物さんに感謝しながらいただきましょうね」
「うん。食べ物さん、どうもありがとう。いただきます」
「お姉ちゃんのご飯のほうが美味しそうだね。あたしのご飯と取り換えっこしようよ」
「千春、どっちのご飯も同じだからな。千春は自分のご飯を食べなさい」
「そうよ。お父さんの言うとおり、どっちも同じなんだよ。あんたは自分のご飯を食べなさいよ」
「うん。わかった」
 
 幼少時代の記憶はあまり覚えていない。
 家族四人でご飯を食べて、テレビを観たり、ゲームをしたり、お母さんに絵本を読み聞かせてもらったりして、ただただ何気ない日常生活を繰り返していただけだったと思う。 

 幼少時代の記憶をあまり覚えていないのは、私の記憶力が悪いからなのか。
 平凡すぎる家庭に生まれたからなのか。
 これといった思い出がないからなのか。
 


 ただ、好きだった男の子が突然の交通事故で亡くなってしまって、すごく悲しかったことはよく覚えている。
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