透き通る季節の中で
 夜になっても蝉が元気に鳴いている。
 その傍らで、一匹の蝉が地面に倒れている。
 長い歳月を土の中で過ごし、地上に出てからの蝉の寿命は、僅か数週間だと小学校の授業で習ったことがある。
 こうして私が走っている間にも、蝉は樹に止まって一生懸命に鳴き続けている。
 
 数週間は短すぎる。
 あまりにも儚い命。
 蝉は何のために生まれてきたのだろう。と考え込んでしまう。
 鳴くために生まれてきたのだろうか。
 子孫を残すために生まれてきたのだろうか。
 
 もし、自分の命が、あと数週間で終わってしまったら……と考えると、すごく怖くなってくる。
 事故にでも遭わなければ、私の人生は終わらない。

 私は気持ちを切り替えて、月明かりの下、いつもの道を走り続けた。
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