透き通る季節の中で
「ピアノとお友達になれたかしら?」
 先生が優しい笑顔で私に尋ねてきた。
「はい。ピアノとお友達になれました」
 先生のご機嫌を取るため、私はウソをついた。
 ピアノとは全くお友達になれていない。
「それじゃあ、今から楽譜を見ながら、ピアノを弾いていきましょうね」
「はい。わかりました」
 今までは自由にピアノを弾かせてくれていたけど、今日から本格的なレッスンが始まった。

「先生、上手く弾けません」
「最初は誰でもそうなのよ。すぐには覚えられないから、少しずつ、ゆっくりと練習していきましょうね」

 先生が何度も何度も繰り返し繰り返し丁寧に教えてくれたのに、親指も人差し指も中指も薬指も小指も固まってしまって、簡単な曲でも、なかなか演奏できるようにならない。
 
 私は物覚えが悪いのか。不器用なのか。音楽のセンスも才能も無いのか。集中力が無いからなのか。飽きっぽい性格なのだろうか。

 レッスンを積み重ねていけばいくほど、ピアノを弾くことが苦痛になってきて、だんだんつまらなくなってきた。
 
 楽しみにしていたクッキーにも飽きてしまい、お母さんの目の前で泣きながら駄々をこねてしまって、いつの間にか、ピアノ教室に通わなくなってしまった。
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