落第音楽部!

入部

「……よし、行こう」  

私は覚悟を決めて窓際の席に向かう。

視線の先、そこには、金ともオレンジともつかないような明るい色の髪の少年、灯蛇沫浬君。またの名を、この学年唯一の『落第音楽部』部員が居た。

そう、吹奏楽部の上下関係に耐えきれなくなった私は、落第音楽部という得たいの知れない部活に入ろうと決意したのだ。名前こそアレだが、吹奏楽部よりは疲れそうにないだろう。

「あの、灯蛇君。ちょっといいかな?」

眠そうに頬杖をついていた灯蛇君は、私の声にぼーっとしながら振り返った。 

「何?満留ちゃん」

『満留ちゃん』。その響きにまだなれない自分がいる。男子とあまり話をしない私は、男の人から名前で呼ばれることに違和感があるのだ。 

けれど、そんな私のことはお構い無し。灯蛇君はクラスの女子みんなを名前呼びする。

「おーい、用件は何ですかぁ?」

「わっ!あ、ごめん」

灯蛇君に移されたようにぼーっとしていた私は慌てて謝った。 

「えっと、沫浬君の部活に入りたいなぁと思って」  

「それって落第音楽部?」

「そう、それ」 

「……マジで?う、嘘でしょ!?」

ガタンッ。
椅子の音を大きく響かせながら灯蛇君が立ち上がった。
何事かと私が身構えると、手を握られた。 

「えっ、何?」

「ありがとう!!すっごい嬉しいよぉ!ね、早速部活いこ!先輩たちを紹介するよ!!」

「あ、うん……って、うわぁっ!」 

物凄い勢いで引っ張られ、私の足は自然に走り出す。


廊下をダッシュしながら、私は吹奏楽部に入部した日のことを思い出した。

『音楽関係の部活に入りたいなら、3年2組湖谷志弥まで連絡したほうが、絶対特だと思うね』

そう呟くと、その人はふらふらと立ち去っていった。



あの時のあの人の言葉、何だか妙に説得力があったんだ。

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