イケメン富豪と華麗なる恋人契約
「父ちゃんもさ、もっとドーンと保険に入ってくれてたら、よかったのになぁ」

「晴斗! それを言うなら、家は焼けても、借金ができても、お父さんとお母さんに生きていてほしかった、でしょ?」


晴斗の言葉は日向子を元気づけるためだろうとは思ったが、つい説教くさい口調になってしまう。


「姉ちゃん、それを綺麗ごとって言うんだぜ」

「綺麗ごとでもなんでもいいの! 晴斗と大介だけでも無事だったから……」


姉弟に同情して助けてくれる人も多くいた。
だが、なかには無責任で心ない人もいて――。


『どうせなら、お姉ちゃんひとり生き残っていたなら、楽だったろうに』


そんな言葉を耳にしたこともある。
だが、もし六年前、日向子ひとりになっていたら……きっと、今でも自分を許せなかったと思う。

父が弟ふたりを助けたと聞いたとき、日向子が真っ先に考えたことは――。
もし自分が家にいて、弟たちを連れて逃げることができていたら、両親は今も生きていたかもしれない、ということ。
学校の行事以外で外泊なんてしたことがなかったのに、どうして、あの日だけ家を空けたのだろう。どうして自分は生きているのだろう。
弟たちがいなければ、今もそんなふうに後悔し続けていたに違いない。

それは考えても仕方のないこと、いつまでも後ろを向いていてはダメだと気づくことができたのは、弟たちがいてくれたからだ。


「お父さんがふたりを守ってくれて、本当によかった」


日向子は努めて明るく言う。


「でもさ、姉ちゃん。夕方、大家がきてたぜ。今月分の家賃がまだなんだけど、って。綺麗ごとだけじゃ食ってけないんだから、現実を見ろよな」


晴斗の鋭い指摘に、日向子の笑顔は引きつる。


(家賃も出世払いのローンにならないかなぁ。それか、お金持ちのイケメン王子様が颯爽と迎えにきて『お金の心配はいらないよ』なんて言いながら、お城に連れて行ってくれる、とか?)


想像しながら、日向子は心の中でクスッと笑う。

現実は、テレビドラマや恋愛小説とは違うのだ。晴斗の言うとおり、綺麗ごとだけでは食べてはいけない。

夢のような出来事が起こることはゼロに等しい。

だが――ゼロではなかった。


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