イケメン富豪と華麗なる恋人契約
すると――数日後、木材加工会社の社長から、彼女が受け取る正当な報酬と、三十日分の解雇予告手当が振り込まれていたのである。
それだけではない。


『いやぁ、実はこっちで司法書士事務所を開こうと思ってね。昔の知り合いが古いビルの事務所を安く貸してくれるって言うからさ。事務の子を雇いたいんだが……高い給料は払えないんだけど、来てくれないかな?』


彼は日向子に仕事まで与えてくれた。
ただ、給料は本当に少ないため、日向子は週末、ファミリーレストランでアルバイトをしている。両方の給料と国の支援を合わせて、精いっぱいやりくりして、三人が食べて行けるギリギリの収入。
そんな状態なので突発的な出費があるとかなりつらい。
だがそれ以上に、日向子に万が一のことがあれば、とたんにすべてが崩れてしまう不安もあった。

しかし、今、考えなくてはならないことは……今月の家賃と大介のこと。


「はあぁ……」


ひとつしかない事務机の椅子に座り、机の上に突っ伏しながら大きく息を吐く。


「どうした、どうした? 遅れてきたと思ったら、大きなため息か?」


窓際にあるちょっと大きめの机が所長用だ。
小野寺はスポーツ新聞を読みながら、日向子のほうをチラリと見た。


「金以外なら、なんでも相談に乗るぞ」


その返答に日向子は思わず笑ってしまう。


「それもありますけど……。遅れたのは、学校から呼び出されたんです」

「ああ、男の子はやんちゃだからなぁ。上かい? それとも下?」

「呼び出されたのは中学校です」


中学三年の上の弟、大介のことを思い出しながら答える。


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