イケメン富豪と華麗なる恋人契約
「でも、中学の部活動程度ならともかく、強豪校で本格的に陸上をやるとなると……コレがかかるんじゃないか?」


小野寺は親指と人差し指で丸を作った。

まさに、悩みはそこに行きついてしまう。

日向子は再び、倒れ込むように机の上に額をゴンと押しつける。


「結局、それなんですよねぇ」


司法書士、行政書士の仕事を身近で見てきて五年が過ぎた。
今を生きることに必死で、未来のことなど考える余裕もなかった。

両親の死は、十八歳の日向子にとって衝撃的な出来事だった。だが、日向子も二十四歳――八月に誕生日を迎えると二十五歳だ。

この春、弟たちの新学期を迎えたとき、小野寺に相談した。


『わたし、行政書士の資格を取ろうと思うんです』


日向子にすれば、清水の舞台から飛び降りるくらいの決断だった。
十一月にある行政書士試験に向けて、勉強したいのでいろいろ教えてください、とお願いした。

そんな日向子に小野寺は、さらなるハードルを課した。


『今のご時世、行政書士は溢れてる。資格を取っても食っていくのは大変だぞ。どうせなら、司法書士を目指せ! こっちなら、確実に食っていける』


そう発破をかけられ、行政書士の資格を取ったあと、司法書士まで目指すことになってしまった。合格率はどちらも同じくらい低いが、難易度的には司法書士のほうが十倍くらい難しいと言われている。
両方とも合格するまでに何年かかるか……しかも、高卒で受かるものかどうかもわからない。いろいろ不安はあるが、日向子なりに自分の将来に向かって歩き始めたところだった。


「あと、お金になる仕事といえば……“夜”の仕事でしょうか」


日向子が、“夜”に力を込めて呟いたとき――。


「いや、もっとお金になる仕事がありますよ」


入り口のほうから聞いたことのない声が聞こえてきた。

慌てて顔を上げた日向子の目に映ったのは、これまで遭遇したこともないほど完璧なビジュアルをした男性だった。



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