君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
「ならどうして1人で泣いてんだよ」
「…………敵わないなぁと、思って」
間をおいてから、小さく口を開いた。枯れてしまった春子ちゃんを、指先で撫でる。
「……伊織君には、昔から大切な人がいて。その人にはどうあがいても勝てない、諦めようって思った」
小さな滴がツー、と頬を伝う。
「その方がいいって分かってる。でも、やっぱり伊織君のこと考えちゃって」
「…………」
自分の感情と、リンクする部分があった。俺も、前に同じことを考えたときがある。
「この春子ちゃん見てると、思い出す」
何を、とは言わなくても大体想像がつく。
「好き、好きじゃない、これ以上好きになっちゃいけない。色んな感情が矛盾してて」
香里は顔を歪めて、こう言った。
「どうして、好きが伝わらないんだろう」
――瞬間、思いっきり香里を抱きしめていた。
「香里っ。俺のこと、見ろよ」
俺なら香里にこんな顔させない、泣かせねぇ。好きな女の悲しい顔見たい奴、いるわけないだろ。