石川くんにお願い!
ぼーっとしてるとつーちゃんが申し訳なさそうな顔で
「死角に座るべきだった。ごめん。後から来たのはあいつらだけど」
と謝ってくる
「ううん。ありがとう。大丈夫」
そうは言ったものの2人のお揃いのキーホルダーが目に入るたび、胸がズキズキした
別にいいもん
気にしてない気にしてない
そう言い聞かせて顔を上げると前の席の男子と目があった。すぐ逸らされたけど
「みんなが朱里をいやらしい視線でみてるね」
なんて石川くんが頭の中で囁いてくれる。
現実逃避していたら気持ちも楽になってきた。
しかし教授の話の内容が全く入ってこない
頭……ぼーっとするかも……
「朱里?」
「ん?」
「大丈夫?顔が真っ赤なんだけど」
ついには横にいる友達にも心配される始末
「あとちょっとだし大丈夫。」
なんだろうこれ……もしかしてこれ興奮しすぎてぼーっとしちゃうあれ?男の人に見られてると感じて身体が勝手に反応しちゃってるのかも!石川くんに報告しなきゃ!
身体の熱さの理由に納得したところで講義終了時間になった
「朱里。今日は帰りな」
「え?どうして?」
「どうしてって…辛いんでしょ?」
「全然大丈夫!!」
心配で眉を下げるつーちゃんに私はニコッと笑って見せる。
「……朱里」
その刹那、聴き慣れている可愛い声が後ろから響いた。
「ちょっと話がしたいの……」
「華奈……」
すぐにわかったよ。でも正直今は話したくない
それが素直な気持ち。
「どのツラさげてきたの??華奈」
だけどつーちゃんがすごくイライラしていてこんな感じだし、冷たくそう放ったことで華奈がビクリと震えている。
まだ華奈の口から何も聞いてないんだもん。逃げてちゃダメだよね。なんて覚悟を決めて
「先にいっててつーちゃん」
と華奈を睨みつけている彼女にそう言った
だってつーちゃんはきっと私のために、目の前で震える華奈に罵声を沢山浴びせるに決まってるもん
優しいし、曲がった事が嫌いだしね。
でも、今回のことは大ちゃんにもかなり非があるからとりあえず言い分くらいは落ち着いて聞きたい。
華奈だけが悪いわけじゃない
「大丈夫なの?」
「うん。」
かなり納得はしてない様子だったけど、最後にキッと華奈を睨みつけてつーちゃんはスタスタと去っていった。
残された私たち2人
いざ話をしようと思って口を開いた瞬間、ポロポロと彼女の目から涙が溢れる
「あのね…朱里。私」
まだ生徒はチラホラいるし、何人かはこっちを見ている。これって理由を知らない人からしたら私が泣かせてるみたいだよね……。
「…大ちゃんのことちゃんと話したかったけど怖くて。ごめんね。朱里…お願い許して」
次から次へと華奈の瞳から落ちる滴に私はスカートをギュッと握った
泣きたいのは……
泣きたいのは私だ。
大好きだった彼氏が一番仲の良い親友と繋がっていたんだよ。
だけど親友からなんの言葉も聞けないまま、いきなりお揃いのキーホルダーを見せつけられた。それなのに今涙を流しているのは自分ではなく華奈。
私の頭ではいまの状況を理解できなかった。
「…朱里っ」
頭が痛い……どうしたらいいの?
責めればいいの?許せばいいの?
華奈だけが悪いんじゃないってどれだけ自分に言い聞かせても、悔しい気持ちが止まらないよっ。
「……ごめんね。今はゆっくり話せる状況じゃないみたいだし、やめとこっか」
いまにも剥がれてしまいそうな笑顔の仮面をつけて、そんな言葉を放った。
もうやだ。誰か助けて
心はすでに泣き叫んでいる。
このままここにいちゃだめだと逃げるように去ろうとすると
「ま、まって!朱里」
と呼びとめられた。
「ごめんね。心の整理がついたらちゃんと話を聞くから」
どうして私が謝る結果になってるんだ
自分自身を嘲笑って急いで逃げる
可愛い親友。モテる私の親友。
よりによってどうして大ちゃんだったの??昔のことを引きずっていた私が大学に入って初めて恋した相手だったのに。あともう少しで一年記念日だったはずのに。
「はぁはぁ…」
悔しさを胸に走って逃げてきたせいかフラフラと身体が言うことをきいてくれなかった
しばらくしたところで、窓にもたれかかり息を整える私
惨めだ……とても惨めだ。
「馬鹿みたいだなぁ……」