石川くんにお願い!


ほんのり甘い匂いがする車内
石川くんは私を優しく助手席に座らせると、シートベルトまでつけてくれた。

「住所さえ教えといてくれれば寝てていいよ。」

いつの間にか持ってくれていたカバンとスポーツドリンク。渡されたその2つを受け取り膝の上に置く。


こちらの扉が閉まったかと思えば、運転席の方が開いて石川くんが座り私を見た。


「大丈夫?言える?」

「ん…。えっと…うちの家は……」


ポツリポツリと場所を説明すると、彼は


「わかった」

なんて言って自分もシートベルトをし、エンジンをかけた。


「せっかく服も下着も選んでくれたのに……ごめんなさい。」

気持ちがいっぱいいっぱいで、また謝る。

申し訳なさばかり勝ってるよ……肝心な時に熱を出した自分に腹が立つ。

そんな私の頬にソッと触れた石川くんは、困ったような表情を向けてきた


「いつでもできることだよ。大体君は頑張りすぎかな」


手が冷たくてすごく気持ちいい
あと、この優しい声。とても心地いいなぁ


「…いくよ」


彼の手が離れると車はゆっくりと動き出す。サイドミラーに映る自分にため息をこぼした。



張り切りすぎか……


「確かに焦ってたかもしれない……」


今日のあの2人を思い出すと特にその気持ちは強い。謝罪が全くないまま彼氏は親友の元へいったのだ。その悔しさが私に焦りを覚えさせた。


「焦っても仕方ないよ」

「そうだよね」

熱で弱っているせいか、華奈と大ちゃんのことを思い出しただけで涙がこみ上げてくる



だめだ。泣いちゃだめ
石川くんにはいきなり泣きついてものすごく迷惑かけてるのに。
熱まで出して送ってもらって、挙げ句の果てに泣いたらまた気を遣わせちゃう。


窓の外に視線をうつし、グッと涙を堪えた。


「とにかく…張り切りすぎないように熱があれども頑張ります!!」


そして声のボリュームをあげると、彼はため息を吐く


「……うん。ただ、いまも張り切ってるよね。」

「え、あ、…はりきりすぎませーん…」

「いい方が変わっただけだ。」


仕方ないなぁ

と運転しながら笑う石川くんに、イケメンエナジーをもらった。

座席の背もたれに身を任せて彼の横顔を見ていると、少し眠くなってくる


「ねぇ…石川くん」

「ん?どうしたの?」

「石川くんは…地獄に落ちた私の前に現れてくれた優しい神様なのかな……もしかしたらみんなに見えてないのかも…」

「…またおかしなこと言って」

信号待ちでチラリと石川くんがこちらを見たのはなんとなくわかったけれど、私の瞼は閉じていった


「……ありがとう。私…すごく助かってるよ……」


そう言った後、意識が遠のいてしまったので


「君ってやっぱり変だよ。朱里」


そんな言葉と共に優しくおでこに触れられた手はもしかしたら都合のいい夢かもしれない。



……確かめたいけどもうだめだ。
少しだけ寝かせてください。


そしてそこからしばらく私の意識はなかった。



***************


「……り」

「朱里」


一体どれくらい経っただろう


ゆっくり目を開けると見慣れた住宅街。


「起こしてごめんね。家はここで合ってる??」


まだ虚ろだけど19年間住んでる家
間違いなく自宅だということはわかった。


「うん……ここ」

私の力ない声に心配そうな顔をして、おでこに彼の手がくる


「……ああ…完全に上がってるね」


ぼんやりする頭のせいでこの状況がどれだけすごいことなのかも、理解できない


「実家だよね……誰かいるかな?」


そう呟いて運転席から降りようとした石川くんの服を反射的に掴んでしまった。


「……どうかした?」

「治ったらまた……修行してくれる?」


さっき夢じゃないかと思ったからかな?こんな迷惑な女見捨てられる…なんて不安だよ。


だけどそんなものはすぐに取り払われた


「君のことは見捨てたりしないよ…。俺も楽しんでるから」


ポンポンっと頭を撫でられて優しい微笑みに、安心を覚える


「よかった…」


そこからはお母さんと石川くんの声を微かに聞き取り

ベッドに寝かされたということもなんとなくわかったけれど詳しくは覚えてない



後から母に聞けば石川くんが運んでくれたらしい。



「おやすみ……またね。朱里」


……石川くんがいれば大丈夫だよね。早く治してまた頑張ろう


見返してやるって決めたんだから……




「…困ったな……放っておけないってこういうことか。」



石川くん、すぐに治すからね。


















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