石川くんにお願い!
「ねぇ朱里」
「どうしたの?つーちゃん」
「いまノートに書いてるのなにそれ」
「ふふふふ。ケーキの落書き」
「…子供かよ……」
講義中私の落書きを見たつーちゃんが、冷たくそんなことを言ってくる
まぁこんなのはいつものことなのでなんとも思わないのだけど。
「ケーキの落書きはどうでもいいんだけど、華奈と話せた??」
私は鼻歌交じりで、シャーペンを動かしていた。だけどそんな彼女の言葉に一度その動きを止める
つーちゃんはチラッと2人の様子を見たけど、すぐに私に視線を移した。
「全然ダメだった。華奈ずっと泣いてたから」
苦笑いを浮かべるとつーちゃんから鋭い舌打ち。
「なんでお前が泣くんだ」
そしてブツブツと文句を言いはじめる。
まぁ…それは私も思ったことだけど。というかつーちゃん私に嫌いってカミングアウトしてから華奈への批判が激しいよ。
まぁそんなことは今はいい。
私の頭の中はケーキでいっぱいなのだ。
「ねぇねぇつーちゃん」
「なに?」
「3人でよく通ったケーキ屋さんがやっぱり一番美味しいかな?」
「え、うん。まぁ…あそこは一番美味しいけど。」
大ちゃんともよく行ったっけ。
いろんな思いはあるけれど美味しいケーキを石川くんと食べられるのであればいいよね。
タルトとチーズケーキ
いつもいつもその2つで悩むんだよね。
「じゃあそこにいこっと」
スマホのアプリを開いて、石川くんに連絡
もうすぐ終わるよ!
師匠が女の子と消費させた体力を充電するためのケーキ
なんておまけにスタンプをつけると、すぐに既読がついて
いまは真面目に講義中だよ
と勉強してるスタンプが送られてきた。
わぁあ!石川くんこんなスタンプ使うんだ!
新しい発見!
そんなことで顔が緩んでクスクス笑ってしまう。そんな私をつーちゃんは不思議そうな顔で見ていた。
「時間を早く進めー!」
ケーキが早く食べたくて、時計に手をかざして力を送っていたら頭をポカッと叩かれる
「ばか。やめなさい」
「はーい……」
怒られたのでこの後は真面目に講義を受けた。
心の中では早く終われ早く終われと唱え続けていたけどね。
やっとのことで講義が終わり教授が出て行く
「じゃあつーちゃん!またね!」
「うん。またねー」
大ちゃんと華奈は見ないようにして、私もここを後にし石川くんを探しを始めた。
まぁ…連絡をいれたら一発なんだけど、ただ自分の石川センサーがどう反応するか調べたいだけ
なんてくだらない賭けをしながらキョロキョロする。
「みつかんないや」
仕方なくスマホにお世話になろうとしていたら
「なにしてるの?」
そんな声がして顔を上げた。
「あ!石川くん!」
「連絡したのに未読だから探しに来てみれば、ここで約束してたっけ?」
「……ごめんなさい。ちょっと自分の石川センサーがどれだけ働くのか調べたくて。今回はダメだったからメンテナンスしないとね!」
「……相変わらず面白いね」
あの優しい笑顔を向けられてこちらまで笑顔になる。
「行こうか。ここだと目立つし」
石川くんにそんなことを言われてハッとすると、女子達の痛い視線。
「ああ!うん!」
早くこの場から離れたいと言わんばかりの彼はすぐにスタスタ歩き出した。
「ねぇねぇチーズケーキは好き?」
「ああ。美味しいよね」
「ふふ。オススメのお店はねチーズケーキが美味しいんだよ。でも私はいっつもタルトに目移りしちゃうの。」
頭の中に浮かび上がる二つのケーキ。
ああ……どうしよう。
また絶対悩んじゃうよ。この際二つでも…いやいや石川くんに食いしん坊だと思われるかな。
「朱里。口が開いてるよ」
「はっ!やばい!ケーキのこと考えただけでヨダレが出る!」
「っ…頼むから笑かさないで……」
口を抑えて肩を震わせる彼に
笑い方もオシャレとかどこの王子様なの
とツッコミを入れたくなる。
ある程度歩いて外に出た頃
石川くんを見つけた派手な女の子が走ってきた。
「翔平!!!」
おお。大人っぽい綺麗な人。
友達に全くいないタイプだ。
「何か用?」
「今日は私の相手してくれる?その子の次でも良いんだけど……最近翔平が恋しいんだよね」
おおおおおおおおお!
お誘いをこんなに近くで見てしまった!!
しかも私も相手だと思われてる!?ほんと!?
石川くんといたら遊び人っぽい?
ワクワクしながら彼の反応を待っていると、大きいため息が一番に聞こえた。
「今日は勘弁してくれるかな。」
そして思いの外冷たい反応。
「え、私…待つよ。」
「多分そんな気になれないと思うんだよね。」
来るもの拒まずの石川くんが、こんな風に誘いを断る所を初めて見てしまったので、私は驚きを隠せない
「わ、わかった。ごめんね」
女の子は石川くんに嫌われたくない様で、そう言うとすぐに去っていった
「いいの?」
私の質問に彼はニコリと笑う
「…いいんだよ。朱里といる方が…刺激的だからね。」
あまりの嬉しい言葉に私はグッと石川くんの服を掴んだ。