石川くんにお願い!
仕事が終わってタイムカードをきれば、数時間前の記憶がまた頭の中で浮かび上がってきて泣きたい気持ちに襲われた。
大ちゃんなんて大嫌いだっ。ほんと嫌い!豆腐の角に頭ぶつけて怪我して欲しいくらい嫌い!!
何か叫びたいけど感情を出してしまえば間違いなく迷惑がかかるので、一緒に仕事を上がったミーコちゃんとお店を後にした
……何事もなかったように振る舞ったけどこの顔じゃあな……
みんな何か察知はしただろうね……
「…それで…どこでどうなったんですか?」
一緒に自転車置き場まで歩いていたら、包容力のある質問に感動を隠せない。
ちゃんと話聞いてくれるんだ…年下なのになんて出来た子。
「…簡潔にいうとね…彼氏と親友ができていてその現場をこの目で見てしまったという…ことです。」
「……最低ですね……友達も彼氏も。」
「まぁでもね…彼氏の言い分からすれば私のせいでもあるみたいで…」
二人が悪いと胸を張って言えたらどんなにいいだろうか…ズキンと胸が痛むわ。
「どーして朱里ちゃんが悪いんですか!」
「…私が彼氏をちゃんと受け入れられないというか…その…初彼氏の時に色々あってね…なんていうかどうしても甘いムードが苦手で」
自分のことを砕いた言い方で説明すると、ミーコちゃんは少し悲しそうな顔で黙り込んでしまう
「それでも…浮気するなんて最低ですよ!」
…優しい…庇ってくれてる…泣いちゃいそうだよぉおおおお
「…なんとかならないかなぁ…こんなの、もしまた次に彼氏ができても同じだ」
はぁ…
とため息を吐いた刹那
「あ…」
この声。
「ん?なに?」
「あ、ち、違うんです。忘れてください!」
「え、なに?なに!?今は藁にもすがりたい気持ち!!どんなファンタジーなことでもいいから!!なにか可能性があるなら教えて!!」
私の必死の懇願に彼女は”しまった”という顔をしたけれど、こちらを見て観念したようにその閃きを口にし始めた。
「…朱里ちゃんと同じ二年生の石川翔平って人を知ってますか?」
”石川翔平”
知らない筈がない。
うちの学校では年齢問わずかなりの有名人だ。
芸能人にも引けを取らない顔とスタイル
歩けば必ず女の子の目がうっとりし、毎回連れてる娘が違う。石川くんとどうにかなるために毎日色んな人が試行錯誤しているという噂もある…
「石川くんが…どうしたの?」
「…高校の先輩なんですけど…そういうことに関してはスペシャリストと呼んでもおかしくないんです。女の子を必ず満足させるらしいですし。」
「…な、なるほど」
「だ、だけど、性格に難ありで!!!これは忘れてください!関わらない方がいいに決まってます!!」
クリクリの目で必死なところ悪いけど、私の方は”石川翔平”ならなんとかしてくれると言う可能性に賭けてみたい気持ちが湧いてきている。
そう…忘れるなど手遅れだ。
「…石川くん…」
「あ、やばい!だめ!朱里ちゃん!だめ!忘れて!忘れてください!!」
「ミーコちゃん…私石川くんにお願いしてみる!」
後ろばかり向いていられないと前に進むことを決めた時の私は強い。
だけどそんな私と対照的に彼女は顔を真っ青にしていた。
「…やばいって思ったら逃げてください!絶対ですよ!曲者なんです!石川先輩は!って朱里ちゃん…返事して!!」
「石川くん…相手にしてくれるかなぁ」
「ああ聞いてない…っ」
頭を抱えるミーコちゃんの横で私は
どうやって石川くんに近付くか
ということを考え始めたのだった。