石川くんにお願い!
元気になる方法
*************
「つーちゃん昨日の私の奇跡の運の悪さ聞いて」
翌日の大学にて。いつものようにつーちゃんの隣に座っている私は、小声でそう呟いた。
「ん?どうしたの?」
「…あのケーキ屋さん行ってきたのね。そしたら大ちゃんと華奈がデートで来たの!すごくない?そんなことある?バッタリ出くわしたからびっくりしちゃった。」
今日はいいことがあるといいなぁ
と思っていたら、目に入ったつーちゃんの怖い顔にギョッとする。
「……なんなの。ないわ。絶対わざと!!」
「いやいや…わざとではないと思うよ。」
「だって朱里がお気に入りの店だって知ってるっしょ。わざとだ。ほんと嫌い。女の敵!」
ノートをシャーペンでぶっ刺した彼女に、内心ビクビクしながら今日も大ちゃんの側にいる華奈の方を見た。
……私がケーキを食べに行くのは知らなかったわけだし、タイミングが合ってしまったのはやっぱり私の運の悪さのせいだろうな。
石川くんとお近づきになれたことで絶対全ての運を使ってるよ……まぁそれは仕方ないことか。
そんなことを考えていたら、講義が終わる合図。
「あ、つーちゃん!私師匠の元に行く!朝、見つけられなかったの。」
「ああ……噂の。誰だか知らないけど行ってら」
明日も会いに行きます!
なんて張り切って言ったくせに、大学に着いた時間が思ったより遅くなって会えなかったんだよね。
カバンを持って走ったけれど、ふと大切なことを思い出して足を止める。
待って……石川くんは忙しい人なんだよ。
誰かと約束があるかもだし、私ばかりが独占していい人じゃない。探したところで…だよね。
「手を振って…挨拶くらいならいいかな。」
そう思って立ち止まっていたら、いきなり頬に何かが触れた。
「ひゃっ!冷たいっ!!」
思わず叫んでしまったけど、後ろからクスクス笑い声が聞こえる。
「……おはよう。朱里」
「あ、い、石川くん!!」
び、びっくりしたよ。もぉ。
犯人は師匠…彼は先程私の頬を冷やしたそれを
「はい。」
と差し出した。
「ん?なにこれ」
「昨日のケーキのお礼だよ。」
「あ!リンゴジュースだ!!このキャラとコラボしてるんだね!!可愛い!!」
今流行りのマスコットキャラとコラボしているペットボトルをありがたく受け取る。女の子のうさぎがリンゴを沢山頬張ってる絵がとても可愛い。
「このうさぎ…食べてる時の朱里に似てるよ」
「え!?まさか!こんなにかわいくないよ!」
「可愛いよ…すごく」
微笑む石川くんの言葉に、嬉しい気持ちが湧いてきた。けれどこれに似てるということは、色気なんてないんじゃないのか。
「私の顔が石川くんにこう見えてるなら、お色気ゼロだね!!もっと…色気のある顔になりたいよ」
「それはそうだけど…大丈夫。色気なんか後からいくらでも着いてくるから。」
「このうさぎの恋人の狼のほうが色っぽいんだよ。そっちは石川くんに似てるのに……ここにはいないみたい。」
あ!でも、師匠からのジュースはものすごく嬉しいんだけどね!?
とニコリと笑ったら、石川くんはどことなく嬉しそうな顔で
「…恋人か…」
なんて呟いてる
そんな会話で盛り上がったのはいいけれど、また石川くんのことを引き止めてる自分に気付いた。
「あ、ごめんね。誰かと約束とかしてるんじゃない?」
「あー…今日はしてないよ。」
「え!!?」
いつも必ず誰かと約束してる石川くんが!?
待ち望んでる子なんかいくらでもいるだろうに。
「…自販機でそのうさぎを見たら、君に会いたくなって。」
優しく微笑んだ彼に、私はキョトンとする。
「私に?」
「うん。」
ああそうか。
昨日私が大ちゃんのことでかなり落ち込んでいたから、励ましてくれてるんだ。
なんて…素晴らしい師匠!!
スーパーイケメンじゃないか!!
「ありがとう!石川くん!私はもう元気だから、抑えきれない欲求を満たしてきてね!!」
グッと親指を立てたら、石川くんはクスクス笑った。
「満たしてきてって…」
「だって…待ってる子は沢山いるでしよ?」
さっきからかなり視線を浴びてる。
これは全て女の子達から彼へ向けられたものだと思う。
「……どうしてか…そんな気になれないんだよね。」
「え!?どこか悪いの?」
私の風邪をうつしてしまったんだろうか。
そんな不安に襲われたけど、石川くんは首を横に振った。
「いや…大丈夫。体調は悪くないよ。」
「ほんと?ならどうしちゃったの?」
「わからないけど……困るものじゃないからいいよ。」
師匠がそんな気分になれないなんて…
悪い病気じゃなければいいな。