石川くんにお願い!
私はしばらく石川くんの身体の不調の原因を考えたけど、ある結論にたどり着いた。
あ、そうか。これはいつも多忙な彼に神様が与えたお休みだ!うん!絶対そう!
「どうかしたの?」
「……ううん!!神様にも愛される石川くんはすごいなって」
「…?」
石川くんは訳がわかってないような素振りを見せたけど
弟子の私が理解していたらいいか。
とそれ以上は言わなかった。
「あ、そうだ…石川くん!取ってる講義教えてほしいな。連絡取り合わなくても見つけ出せるように。」
私からの連絡にいちいち返してもらうなんて申し訳ないもんね。
メモを出して、師匠のスケージュールを把握。
「……じゃあ俺も教えて」
彼もそう言ってくれたので、カバンの中にある紙を取り出した。これに私の大学の予定が全て書いてあるし、手っ取り早い。
そのまま差し出せば石川くんは笑顔で受け取ってくれた。
「それより…石川くん…。よく私のこと見つけ出せたね!」
「俺にも朱里センサーが付いてるのかもね」
私の言葉への返事に、激しい感動を覚える。
さすがはできた師だ。弟子の居場所を把握する技も覚えているなんて。
「素晴らしい師弟関係が結べて、私は幸せです!これからもお慕い申し上げます師匠!!」
「……ほんとは他の女の子達からの情報だけど。」
キラキラと顔を輝かせる私に、ボソッと彼が囁いたけどそれはよく聞こえなかった。
「え、なんて言ったの?」
「ううん。何でもないよ」
気にはなったけど、いたずらっぽい笑顔に翻弄され魅入ってしまう。
ああ…美しいなぁ
「…つい話し込んでしまったけど、そろそろ行くよ。もうこんな時間だ」
「あ、ほんとだ。」
腕時計を見てしまったことで、夢の世界から現実世界に戻された気分に陥った。
「今日のお昼の予定は?」
「…え?あ…学食で食べようかなって」
「ならちょうど良かった。一緒に食べない?奢るから」
だけど……貴方はすぐに私を素敵な世界へ連れ戻してくれるんですね。石川くんに学食を奢ってもらえるなんて、弟子としての優越感に浸りまくりじゃないか。
「すっごく嬉しいっっ!!!!」
「朱里の食べてる顔…可愛いから。」
「……このうさぎみたいに頬張るよ!」
「…はは…っ。楽しみにしてる。」
そんな楽しい会話をしている最中、なんだか見られてるような気がして反射的にそちらを向いてしまう。
「……あ」
確実に目が合った人物は、大ちゃんだった。
っていうか睨まれてる?なんなの…!!
顔を見ただけで腹が立つので、舌を出してやろうとすればプイッと逸らされた。
「どうかした?」
「ううん。なんでもないよ!また後でね!」
「うん。後で」
石川くんに言うほどのことでもないしと、軽く誤魔化して手を振る。女の子達が羨ましそうに見守る中、彼も手を振り返してそのまま去っていった。
なんでお前が。
みたいな女の子達の視線とヒソヒソ話が痛い…。だけど石川くんにもらったリンゴジュースを見てると、そんな痛みは一瞬で消えた。
「……似てるかなぁ。」
そんなことを呟きながら、つーちゃんの元へ向かう。
…っていうか大ちゃんもう行ったのかな?
あれ絶対睨んでたよね。私のこと。
なんて私が睨まれなくちゃいけないんだ。
こっちが睨みたいくらいだよ。
考えたらイライラするので、石川くんから癒しを貰おうとリンゴジュースを飲んだ。
蓋を閉めた後、ペットボトルをみると平和な顔したうさぎに顔がにやける。
これの恋人の狼……絶対石川くんに似てるんだよね。つーちゃんが確か好きだった気がするんだよなぁ。
…一人で色んなことを考えながら、次の講義の行われる教室へ。つーちゃんの姿を見つけて、ジュースの自慢をするために走った。
「みてみてみて!」
「うわ…びっくりした。なに」
「このうさぎ私に似てる??」
差し出したペットボトルのキャラと、私を交互に見た彼女は
「ほんとだ。食べてる時の朱里に似てる…っ」
と笑う。
「えへへ。師匠が似てるって言ってくれたー!」
2人から似てると言われて調子に乗った私は、つーちゃんの隣に腰掛けて喜びに足をバタバタさせた。
落ち着け
と太ももを彼女に叩かれてすぐやめたけど。
「…ほら朱里。教授来るよ」
つーちゃんは呆れたように筆記用具とノートを出す。そこで…彼女の筆箱につけられたキーホルダーが目に入った。
「ね、ねぇ!つーちゃん!これどうしたの?可愛い!」
それはこのうさぎが婦警、狼が警察官のコスプレをしてるもの。
「ああ…いまその会社とコラボしてるでしょ?コンビニでお菓子買ったらおまけがつくの。今日はこれが当たった。」
つーちゃんが見せてくれた箱を見ると、
学生服
看護師と医者
天使と悪魔
とにかく色々あった。
その中でも印象に残ったのは
ヒーローとお姫様。
この…狼の顔が一番石川くんに似てる!!!
ちょっと意地悪そうだけど、ヒーローという優しい雰囲気がかなり!
「これ欲しい…」
「…こればっかりは運だからね。私は学生服のが欲しいの。後レアもある!」
ツンツンと彼女の指した場所を見ると、ハテナマーク。なるほど…考えられてるな…。
「後で買いに行く!大人買いだ!」
「……勝手にどうぞ。」
近くのコンビニに行こうなんて思っていたら、講義中ずっと私のにやけが止まらなかった。