石川くんにお願い!


講義が終わって慌ててカバンに荷物を詰め込んだ。彼氏とデートするから帰ると言ってたつーちゃんにさよならして、私はそのまま大学近くのコンビニに猛ダッシュ。

「あ、あった!!」

大人買いしようと思っていたおまけ付きのお菓子。どうやら人気らしく最後の一個みたいだ。

仕方ないか…ヒーローこい!

なんて念力を送りながら購入し、石川くんの元へ走った。


お菓子を握りしめたまま大学前の食堂に着くと、彼はキョロキョロしながら立っている。


「石川くんっ!」


少し息がきれたけどなんとか大きめの声で呼ぶと、石川くんが振り向いた。周りの女子達もこちらをみてしまったけど…


「朱里……そんなに走ったら転ぶよ。」

「だ、大丈夫!お待たせ。」


ハァハァと息を整えるために大きく空気を吸い込んだら


「……どこかに行ってたの?」


と不思議そうに彼に聞かれる。


「コンビニ!これみせたくて!!」


じゃじゃーんとお菓子についてるオマケの箱を、石川くんに見せた。


「なにそれ」

「リンゴジュースに描いてあったウサギとその恋人!!狼……石川くんに似てるでしょ?」


説明しながら箱にプリントされた写真をみるけどやっぱり似てるよね。かっこいいし……



「肉食系だから?それとも…」

「……みてみて!このヒーローのやつが正に石川くんだよ…」


思わず興奮で言葉を遮ってしまったが勢いが止まらない。早く中を見たいという気持ちばかり先走ってるのだ。


「私どうしてもこれが欲しい!一個しかなかったの…。当たるかな…当たって欲しいな…」


私はもうすっかり自分の世界へ踏み込んでしまった。すると汗で張り付いた髪をはがすように、石川くんが私のおでこに手を添える。



「それが欲しくてわざわざコンビニまで走ってきたの?」

「だって!だって嬉しかったから!さっきのうさぎ!!!これ友達に聞いたらね、コンビニにしかないって言うし…でもどうしても石川くんに狼見せたくて!!あけるのも一緒に!」


文法がバラバラの私の言葉に彼はクスッと笑うと

「落ち着いて」

なんて優しく声をかけてきた。

さっきまでおでこにあったはずの彼の手が、髪に触れていることに気付く。


待って…走ったから汗臭いかも。


「…あ、汗…結構かいてるから臭いが…」


離れようとしても石川くんのもう片方の手がそれをさせてくれず、引き寄せられた。


「……ううん。朱里の匂い好きだよ。俺」


髪にキスされて体温が上昇したけれど

ああこのシャンプーは男の子が好きな香りだってCMでやってたっけ。

となんとか冷静さを取り戻す。


女の子達が恨めしそうに見ていたけれど

このシャンプー使えばいいのに。

なんて考えた。


「…お腹空いたね」

至近距離でニコッと笑った彼に私もニコリと返す。私の身体を解放すると石川くんはメニューを指差した。


「朱里はなに食べたい?」

「あ、えっと…」


メニューをみると欲張りな私の目に飛び込んできたスペシャルランチ。


うわぁ…この値段でこのボリューム!?
美味しそう……やばい…


「…これ?」

「え、あ、お、美味しそうだなって」

「…なんでも食べればいいよ。これでいい?」


安いとはいえ大学の食堂では一番高いメニュー。

「い、いいの?」

「当たり前だよ。」

それを選んでも爽やかに笑ってくれるなんて、石川くんはやっぱり神だ。


「嬉しいっっ!!あ!席に着いたら一緒におまけ開けようね!!」



私の言葉に彼はとても優しい顔で微笑んでくれた。



最近何か言ったり、したりすると必ずこの顔で笑ってくれるけど

やっぱりこの狼に激似だ……。


ここまで似てるキャラに出会えた自分の運に感動し、石川くんと食券を買いに行く。


本日のスペシャルはエビフライに唐揚げにハンバーグに付け合わせのサラダとパスタ。ご飯も普通より多めだし、スペシャルの名にふさわしい。


そして10分も経たないうちにスペシャルランチは私の前に現れてくれた。



「な、なんて豪華なの!!!」

「学食ってすごいよね。それでも千円行かないんだから。」

「でも、でも、師匠はプリンまで私に買ってくれた!!プリンまで!!!」


おまけにいつの間にか

これも食べなよ。

と買ってくれたデザートのプリン。


…いいの?こんなに贅沢していいの?私。


「いいんだよ。食べてる朱里のこと見るの好きだから。」


石川くんが持っているのはカレーライスのみ。


……ああ神様。
どうしてこんなにこの人は素敵なのでしょうか。自分はカレーで私はスペシャルランチ。申し訳ないけど、嬉しい。



「…早く食べたい!あ、でもおまけ開けなきゃ!早く席に着こう!!」

「…落ち着いて」


私は石川くんと人をかき分けて席を探した。


今日はいいこと続きだ…。







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