石川くんにお願い!
”惨め”
まさにこの状態にふさわしい言葉
「…なにしてるんだろ。言い返せばいいのに」
誤魔化して場を収めようとした自分を嘲笑って、石川くんの荷物をジッと見つめる。
あまりに滑稽だからか、表情を作ることもできなくてただボーッと彼の帰りを待った。
そこから10分くらいすると、人も少なくなってくる。
「ごめんね。遅くなって」
そんな食堂で静かに座っていた私の背中から師匠の声が聞こえた。
「あ、石川くん!おかえりなさい!」
まずい。油断してた。
ちゃんと笑えてるかな……
「…あ、もしかしてさっきの子と…?」
「まさか。朱里を待たせてるのにそんなことしないよ。」
なるべく喋ろう。そしたら誤魔化せる。
そう思った私は、話題を探しては口を動かす。
「カバンはちゃんと見張ってたからね!安心してね!何も取られてないよ!」
「………」
「ずっと思ってたんだけど石川くんのカバンっておしゃれだよね!高そう!さすがというかなんていうか。私なんて安売りのやつでさ」
「……朱里」
「あ、どうでもいい話をしちゃったね。ご、ごめ」
謝ろうとしたその刹那
ソッと顎をクイッと持ち上げられた。自然と目は石川くんを見つめる形になる。
「何かあったの?」
いきなりきたその言葉に、カッと目を見開いてしまった。
…だめ…泣いちゃダメ
自分にそう言い聞かせて、無理やり笑顔を作る。
「な、なにもないよ!へんな顔してた!?」
いくら誤魔化しても真面目な顔した石川くんは、何かを見透かしたように私を見つめていた。
…何かうまい誤魔化し…だめ。したいのにできないっ。
「…下手な嘘…つかなくていいから」
「っ!!」
優しく頬を包んだ石川くんの大きな手。
「泣きそうな顔して…何があったの?」
ツゥと親指で目の下をなぞられたら、私の中の張り詰めていた糸がいとも簡単に切れる。
ポロポロと一度溢れ出した涙は止まってはくれなかった。
「…い…しかわく…」
「……うん。どうしたの?」
きっとこの涙の理由を待ってくれているんだろう。だけど、私の頭の中はいま悔しさと悲しさで狂ってる。
「…私のこと抱いてくれる……?」
だからかな…気付けばそんなことを口走っていた。
滲んだ世界で彼が驚いた顔をしたことを理解する。だけどその顔はすぐに切なげに笑って、私の止まらない涙を拭った。
「……君が望むなら…」
泣き止んで…
そう言わんばかりに優しいキスがおデコに落とされる。
……大丈夫。相手は石川くんだもん。絶対大丈夫。ちゃんと…私の身体治ってきてるはずだもん。
心の中でそう言い聞かせていたら、ギュッと手を握られた。そして石川くんは2つカバンを持つとゆっくり歩き出す。
「……ど、どこいくの?」
「ここはまだ人がいるから。ついておいで。」
黙って従えばいつもの人気のないところにきた。私から離れて、カバンを置いた彼は塀にもたれて座り込む。
「ほら、ここ座って」
指定された場所をみて
「え、そこ?」
私は涙ながらに驚いた。
だってそれは石川くんの膝の上。
ど、どうしよう…座っていいものなの?
固まっていると彼はポンポンと太ももを叩き、ニコリと笑う。
「ほら…はやくおいで。抱いて欲しいんでしょ?」
おずおずと背中を向けて座ろうとすれば、石川くんの方を向くように指示された。
…これは…恥ずかしい。それに……やっぱり
自分の言ってしまったことに、また昔のことを思い出して怖くなってくる。
だけど…さっきの悔しさがそれを振り払い、いを決して向かい合わせで座った。
あんなにプライドをズタズタにされたのに、怖じ気付いてる場合じゃないじゃんか。ああだめだ…さっきのこと思い出したらまた涙が……
「……止まらないみたいだね…」
そう言われて、ツゥと頬を伝ったそれをペロリと石川くんが舐めとる。そしてそのままそこにキスされた。
ギュッと目を閉じて身をまかせる。
そしたら彼の手がソッと私の服の中に入り込み背中を撫でた。
「……っ」
怖い…やっぱり怖い…
その先を勝手に想像して身体が震えだす。
我慢しないといけないなんて言い聞かせてるのに、どうして我慢できないんだ…
そんな気持ちで顔を歪めていると突然石川くんの手が止まり、コツンという音と共に私達のおデコが合わさった。
「…焦っても仕方ないって…言ったよね。俺」
おまけに優しい声。あまりにも暖かくてまた涙がポロポロ流れ出す。
「… い、いった…」
「うん。なら…焦ってバカなこと言わないで…ちゃんと泣いてる理由を教えて。」
石川くんには…私が勢いでそんなことを言ってしまったなんてお見通しだったみたいだ。