石川くんにお願い!
”石川翔平”
はっきり言って私とは住む世界が違う。月とすっぽんすぎてつらくなるぐらい違う。
今までは彼氏もいたし、石川くんは女たらしだという噂から近寄ることすらなかった。
もちろん目が合うことも話しかけたこともない。
だけど…今は状況は違うもんね…
大ちゃ…元彼の綺麗事なんてあてにならなかったし、変わるなら私が変わるしかない。
このままでは大ちゃんと華奈を前にして泣き寝入りするだけ。この悔しさを糧に前に進むにはこの体質をどうにかしないと!
「「きゃー!!石川くーん!!」」
広い大学の中
必ず1日は耳に入ってくるこの女子の歓声。
平凡な私が彼に近づくのは至難の技かもしれない。現に今も遠くから見つめているのみ。
「…ま、眩しいぜ。石川くん。だけど…来るもの拒まず去る者追わずって聞くし…なんとかお願いしたらいけないこともないと思うんだけどな……」
だがしかし…周りを見れば可愛い女の子ばかり。私が入る隙などこれっぽっちも無さそうだった。
「…やっぱり…無理かな…」
心が折れかけたその時
「…あっ……」
大ちゃんが数人の友達と楽しそうに歩いているのを見つけてしまった。
あんなことがあったのに…何もなかったようなその姿に胸がズキンと音を立てる。
やっぱり…終わったよね。
携帯になんの連絡も入っていなかったし、あんなにはしゃいでるもん。こうして見ていると昨日のことが夢みたいだ。
ギュッと拳を握ってもう一度女の子たちに囲まれた石川くんを見た。
「変わらなきゃ…」
あんな男…別れて正解だって自分の中で納得できるように。
来るもの拒まず、去る者追わずでも私みたいな女は拒否されるかもしれない。
図々しいなんて言われるかもしれない
だけど…私を変えてくれる可能性が1パーセントでも石川くんにあるのなら、私が縋りたい藁は彼だ。
そう!石川くんは藁だ!
そんな錯覚かもしれない不確かなものに覚悟を決めて、私は彼に近付くチャンスを待った。
とりあえず一人になった時がチャンスだと時間が許す限りはストーカー行為。
一人になれ…一人になれ…
そんな願いを石川くんの背中に送りつつ、神様が私に笑ってくれることをひたすら待った。
「あれ?」
…周りに群がっていた女の子達が突然引いてる…?いつのまにか綺麗な女性と並んで2人きり。
「…?」
人数が減ったことは幸いだ。
そう思って歩いていく二人の背中をこっそり追った
だけど…私は知らなかったのだ。女の子と二人になった石川くんを追いかけてはいけないという暗黙のルールを。
だから今…とんでもない窮地に立たされてる…
「…し、しょうへいく…」
「……声が大きいよ。見つかっていいならお好きにどうぞ」
人気のないところにきた時点で気づくべきだった。いまから何が起こるかなんて…大体予想はつく
「(ど、どうしよう…)」
とりあえず茂みに隠れてはみたけれど二人の濃厚なキスは見てしまった後。外国映画のワンシーンみたいで心臓が破裂しそうだった
え?ここ大学ですよね?
「…ほら…自分から誘ったんでしょ?」
石川くんの甘々ボイスが私の破裂しそうな心臓を更に追い詰めてくる。
う、うわ…これは…や、やばい
さすがにまずいと思って見ないようにはしてるけれど、聞こえるで声で二人の行動を次々と予測してしまっていた。
「…しょうへいくんっ…」
「…こんなことでへばってたら…もたないよ?」
「い、じわる」
「知ってるくせに。」
……どこの漫画だよこれぇえええええええ
思わず心の中でツッコミが激しく木霊する
いやもう何してるかなんて考えないっ!だめだめ!
これはまずいでしょ!!
いや落ち着け私
いや落ち着けるかぁああああっ!!
甘い声をバックに私は一人でバカみたいに暴れていた。
いや正確には暴れてないけれど、暴れたい気持ちでいっぱいだった。
…私が死ぬ前に早く終われっ!!
今私は激しくそう願う。