石川くんにお願い!


「泣いてしまって本当に申し訳ありませんでした!!!!」

翌日の朝
私は自分の部屋の鏡に向かって謝罪の練習をしていた。

いや…昨日のはほんとにない。
上に乗っかったまま号泣して、服に鼻水までつけて……


「…土下座までするべきだろうか」


思い出せば思い出すほどひどい失態だ。


とりあえず行って謝るしかない。なんて思った私は、部屋を出て靴を履き玄関の扉を開けた。


そこで一番に目に入ったのは


「おはよう。朱里」


神々しい神。



…え?夢?


目を擦って再度見てみるけれどやはりいる。


「…い、石川くん!なにしてるの!?」

「迎えに来たんだよ。ああ…目がほんのり赤いね。うさぎみたいだ」

「……食いしん坊のね。って違う違う。朝からどうして!?」


とても普通に話しかけられているのだけど、朝から師匠のお迎え。そんなの贅沢すぎるでしょ!!


「…講義の教室は別だけど、時間は同じだったから一緒に行きたいなと思ってね。」

「え、う、え!!?」


頭が混乱していて、間抜けな声しか出ない。

っていうかここで何分待たせた!?


「き、昨日はほんとにごめんなさい!石川くんの優しさに甘えまくって!!!」


練習では土下座まで行き着いたけど、流石にここでそれはできないので私は深々と頭を下げた。


「…かなり迷惑かけたよね。本当に…」

「迷惑だなんて思ってないよ。」


私の言葉に石川くんは、サラッとそう言ってきたので下げていた頭を上げる。


「…それに…俺は朱里が思ってる程優しくなんてないしね。」


淡々とそう言われたけれど、昨日の記憶が鮮明に思い浮かんだ。


いやいや、あれで優しくないなら誰が優しいの。


心の中でツッコミをいれて、ブンブン首を振った。


「謙遜しなくていいから!」

「女の子が泣いてても平気だし、なんなら冷たい言葉もかけるよ。」

「またまた…そんなこと言って」


信じられないと笑ってみるけれど、彼の顔はいたって真剣。



「昨日食堂にきた女の子覚えてる?」

「…え、あ、うん。」

「あーいう子はね、一度寝ると面倒臭そうだから断ったんだよ。一回限りでいいって泣かれたけど、なんとも思わなくてすぐに突き放した。」



…来るもの拒まずと聞いていたけれど、やっぱり石川くんの中にもルールがあるんだ。


…噂だけじゃあてにならないな。驚いた。


「俺のせいで彼氏と別れたとか、好きだと泣かれたりとか、冷たいと罵声を浴びせられても心はちっとも痛まないのに」

「うん」

「朱里が泣くとひどく苦しいのはどうしてかな。」



え?


石川くんの言った言葉につい固まってしまった。


いや…私も全然わからないよ。強いて言うなら…


「弟子だから?」


他と違うところはこれしかないとそう言えば、少し考えた石川くんはニコリと笑う。


「なるほど。弟子って可愛いんだね。」


これぞまさに師弟愛!!
ついにここまできたか!あー嬉しい!!


「これからもどうかよろしくお願いします!」


あまりの喜びにぺこりと頭を下げたら彼も同じように頭を下げた。



「こちらこそ。」


優しくない石川くんなんてこれっぽっちも想像できないや。だって朝から様子を見に来てくれるぐらいだもの。弟子最高!!


心の中でガッツポーズしていると


「朱里…手を出して」


石川くんが優しくそう呟いたので、私はすぐさま言われた通りに手を出す。


何かが置かれた?ん?何?


「…女の子を元気付けたことなんてないから。君が笑顔になる方法がとりあえずこれしか思い浮かばなかった。」


手の上に乗った物をジッと見つめると

お姫様のうさぎとヒーローの狼が笑っている。


「あ…」


昨日欲しいって言ってたお菓子のおまけだ!!


「うそ!ほんと!?当たったの!?」

「まぁね」

「どうしよう!嬉しい!え、どうしよう!」


突然のサプライズに思わず手が震えた。ボーッとそれを見つめていると、石川くんが私の顔を覗き込む。


「…朱里?」

「ほんとにほんとに嬉しいよ。ありがとう」


思わずにこりと笑えば、それにつられて彼も笑った。



「やっぱり笑顔になったね。」


すぐさまカバンにつけて、あまりの嬉しさにカバンごとギュッと抱きしめる。


「私これからも頑張れる。勇気を貰えるから!」

「そっか…良かった。」


満足気に笑った石川くんが

行こうか

と呟いたので大きく頷いて、歩き出した。



石川くんは恋なんて面倒だって言ったけど、彼女になる人はすごく幸せだろうなぁ。


だけど彼女が出来てしまえば、きっとこの関係は終わってしまうから


今はまだ面倒くさいままでいて欲しいなんて

私は弟子失格だろうか。



「…おまけすぐ出た?」

「…え、ああ。うん」

「さすがは石川くん!!」

(ほんとは10個大人買いしたけど…)




……図々しくても弟子として側にいることをお許しください。



なんて心の中で願った私であった。








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