石川くんにお願い!


「ま、まさか!私だって身の程をわきまえてるよ!!」

今は近づきすぎて忘れがちだけど、相手は大学一のイケメン。私はそこら辺にいる普通の女の子。

もはや芸能人と一般人並の壁がある。それは重々承知だ。


「…ほんと?」

「つ、つーちゃんってば…要くん!!同じ弟子として何か言って!!」


間にいた天使くんにそう言えば、少し困ったように笑う。


「えっと……まぁでも翔平先輩は素敵ですもんね。」

「か、要くんそれフォローになってない!」


噛み合ってない会話の間に入るように、つーちゃんがため息を吐いた。


「朱里は男で苦労しそうだから心配。連絡先聞いてきたの広大くんだっけ?元彼の友達って言うのがキーだけど、それさえなければあの辺がいいのに。」


こ、広大くん?
確かに礼儀正しいし優しいし気兼ねなく付き合えそうだけど……

って違う違う。そういうことじゃない!!


なにか反論しようと言葉を選んでいたら


「朱里先輩ってモテるんですね…」


と要くんがポツリと呟く。



「え、いやもてないよ!全然!」

「翔平先輩も朱里先輩のこと気に入ってるじゃないですか。明るくてとっても素敵ですもんね。」

「…あ、え、そ、そんなことは」


褒められたら照れてしまうじゃないか。要くん…ほんとにいい子だよ。

そんな感動をしていると、彼は思い出したような表情を浮かべて慌てて腕時計を確認した。


「あ、す、すいません。僕つぎの講義があるんで、失礼しますね!」

「あ、引き止めてごめんね。要くん」

「いえ。こちらこそです…失礼します」



頭をぺこりと下げた後少し慌てたように走っていった彼を確認したところで、つーちゃんがまたギロリと鋭い視線をぶつけてくる。



「もう一度聞くけど、石川くんに何か言われたりされたりして、勘違いしたりしてないでしょうね。私のこと好きなの?とか」

「あのね、つーちゃん!顔見て顔!あんな神と釣り合うと思うの!!?」


心配してくれるのはかなり嬉しい。つーちゃん世話焼きさんだし。でも、私なんかが勘違いしていい相手じゃない!


「いや…顔は関係ないけど」

「あの石川くんだよ!?隣を歩ける人は絶対美人に決まってる!私なんか好きになるはずないってちゃんとわかってるの。優しくて神様だから一般市民の可哀想な私を助けてくれてるんだよ。おこがましいこと考えるわけないじゃん!!」



あまり息継ぎをしないで言い分をぶつけたせいか、はぁはぁと息が上がっていた。


「…わ、わかったから。朱里はそういうとこ清々しいな。大ちゃんのときはすぐに流されてたから…気になったの」

「だって大ちゃんは同じ世界を生きてる一般市民だもん。特別ブサイクでもないけど、特別かっこいいわけでもない。私と同じなの。石川様と比べたら駄目。」

「ちょ…言うね。朱里…きっつ」


クスクス笑い出した彼女に私もつられて笑い出す。


まぁ…付き合ってからは誰よりもかっこいいって思ってたんだけど、そんなフィルターは遠くの山に放り投げたよ。しかも…あの石川くんと競えるのは最早テレビの中の人くらいだと思う。


そんなことを思って、つーちゃんと歩きだす。



どうやら私の興奮した意見に納得してくれたようだ。その証拠に石川くんの話題に戻ることはなかった。



しばらくして教室に入ろうとすると、華奈の姿



「あ…」


と彼女は私の方を見つけると気まずそうにした。



うん…私のカバンにはいま石川くんの分身であるヒーロー狼がついてるんだ。大丈夫大丈夫。


「おはよう。華奈」


ニコリと笑えば華奈は驚いたような表情を浮かべる。まさか私から話しかけられるなんて思ってもいなかったんだろう。



つーちゃんは無視したけれど、そのままスッと彼女の横を通り過ぎた。



「やるね。朱里」

「ふふ…”くだらない男”のことで悩んでても仕方ないもん。華奈を恨んでも仕方ないし、幸せになって見返してやるの」

「…あんたのそういうとこすっごい好き」



つーちゃんの突然のデレについつい顔が緩む。


まぁ…そう思えたのも師匠がすっきりするまで泣かせてくれたおかげだよね。

後…この狼に守られてるって感じがするんだよなぁ。


ちゃんと前に進めてるって、石川くんに報告しよっと。




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