石川くんにお願い!
修行っぽい修行は最近していない。それでも石川くんがそばにいると変われる気がするから不思議だな。
なんて考えながらニヤニヤしていたら、あっという間に講義が終わった。
「つーちゃん!私、石川くんのところに行ってくるね!」
「はいはい。行ってらっしゃい」
カバンを持ってふと華奈と大ちゃんを瞳が捉える。
……華奈ともまだ何も話せてない。話すべきなのか、そうしない方が良いのかはわからないけど……。
「…もうちょっと様子見るか…」
ぽつりと呟いて、教室を出たところで
「あ、朱里ちゃん!みっけ!」
広大くんが笑顔で声をかけてきた。
「あ、広大くん」
もしかして大ちゃんに会いに来たのかな?結構仲は良いみたいだし。
「どこかいくの?」
「…うん。広大くんは?」
「ああ俺…俺はその」
しかし私が質問すると、彼はほんのり顔を赤らめて口ごもる。
初めは元カノである私に遠慮してくれてるのかなぁ。なんて思ったけど、小さな声で広大くんが呟いた。
「朱里ちゃんに会いに来た」
そのセリフに思わず固まってしまう。
え?私?
「…え、えっと」
「あ、いや、その聞きたいことがあってさ。今から用事ある?」
こういう時どんな反応をして良いのか全くわからなくて、ついつい悩んでしまったじゃないか。だけど、なんだ…聞きたいことがあったのか。
「えっと…今からちょっと石川くんと会う約束してるの」
”聞きたいこと”が何なのかはわからないけれど、とりあえず素直に用事は伝えた。すると広大くんの顔が少し曇る。
「朱里ちゃん…しつこいかもだけどさ」
「うん?」
「石川と付き合っては無いんだよね」
この前と同じ質問。
あれ?ちゃんと答えてなかったかな?と思った私は、もう一度首を振ってはっきりと言葉にした。
「付き合ってないよ!」
「そ、そうだよね。あ、なら好きとか?」
石川くんのことは大好きだ。
だけど彼の言う好きの意味が、私の思うものと違う気がしたので静かに首を振る。
「…良かった…」
笑顔になった広大くんに、私もとりあえず笑顔を返しておいた。
良かったってなぜ?
あ、もしかして石川くんのファンの子から何か言われちゃうのかな。
色んなことを考えていると真っ直ぐと見つめられる。
「いろいろ質問してごめんね。あのさ、朱里ちゃんさえ良かったら、明日ご飯でも行かない?」
「え…明日?」
「いきなりすぎるかな?でも…もっと仲良くなりたいなって…思ってて。」
照れる広大くんの顔。
もっと仲良くなりたいというワード
これは少なからず好意を寄せられてるんじゃないだろうかと、ピンっときた。
も、モテキ!?もしかして石川くん効果かな?
少し興奮したけれど、よく考えたら相手は元彼の友達。
そして私はまだ恋愛には乗り気じゃない。師匠以外の男の人への不信感もあるし、自分自身も変われてない。
「あ、できたらでいいから。返事は保留にしといて!考えてくれて、答え出たら連絡待ってる!」
少し悩む私に広大くんは爽やかな笑顔をくれた。
強引すぎなくて、こちらに考える時間くれるなんていい人だよね…彼って。大ちゃんにひどいこと言われた時もフォローしてくれたし。
「わかった。また連絡するね」
「うん!!待ってる!明日がダメでも、全然予定空けるから!!」
それだけ言うと広大くんは、ほんのり赤い顔で手を振って走って行く。
どうするべきかはわからないけど…まずは…師匠に相談した方がいいかな。こういう時はどうするべきなのかと聞いたら、すごいマニュアルどうりの答えをくれそうな気がする。
そんなことを思いながら石川くんが待ってる場所へと、少し早足で向かった。
講義中にきていた師匠からのメッセ。
女の子達に見つからないように、初めてあったところで待ち合わせしようか。
という内容だったので迷うことなくその場所へ。
キョロキョロと石川くんを探すと、後ろ姿だけでもイケメンオーラが滲み出ている人を発見した。
間違いないとそっと近付いて
「石川くん!」
と声をかけたら彼は満面の笑みを浮かべる。
「やぁ」
「遅くなってごめんね。ちょっとね色々あって」
「色々?」
さっきのことをどんな風に発表しようかと悩んだ。
とりあえず修行の成果が出てるということを伝えたらいいかな…
「私ね、師匠の教えのおかげでモテ期が来たかもしれないの!」
そして放ったものがこれ。
弟子の成長に
おめでとう。やったね。
なんて言われるのかと思いきや、石川くんの眉が歪む。
あれ…?わかりづらかったかな?