石川くんにお願い!
こんな反応を予想していなかったので、少し怯んだけど沈黙が怖くてしゃべり続けた。
「あ、あのね、石川くん効果だと思うんだけど、RINE聞かれたの!ご飯にも誘われた!」
「…うん。それから?」
「こ、こんなこと初めてだからついついテンション上がっちゃうなって!ほら、私可愛い属性じゃないし、スタイルもいたって普通、おまけにテクニックもないし、モテる要素がないから!全部石川くんのおかげかなって!」
きっと師匠がいなければ、私は悲しみから抜けられず、引きずったままだったと思う。
だからこそ変われてるということを伝えたかった。
だけど…石川くんの反応がよろしくない。
「あ、も、もしかして、石川くんの美しさ貰ってるのかも!!そうでもしないと信じられな」
マシンガントークを続けていると、彼の長い指が私の髪に触れる。そして、真っ直ぐと瞳の中に私を閉じ込めた。
「…可愛いよ」
「…え、え?」
「朱里は可愛いよ。」
甘い言葉と共にゆっくりと手が降りてきて、大きな手に頬が包まれる。
「…すごく可愛い」
…壊物に触るみたいに優しい手。
ケーキみたいに甘い声。
頭がどうにかなりそうだ。
その証拠に自分でも、かぁあああと顔が赤くなるのがわかった。
「あ、わ、私、褒められるのに慣れてない!自虐ネタは平気だけど、こういう時どういう反応していいのか!!」
「そうなの?」
「そ、そう!幼馴染にもブスって言われてたし、化粧したら目の大きさ全然違うもん!」
ブンブンと首を振って必死に照れを隠す。美人系のつーちゃん、可愛い系の華奈、私は確実にお笑い系だ。
それでも石川くんは不思議そうな顔して
「…真っ直ぐだし可愛いと思うけど。みんな目がおかしいのかな」
なんて言ってる。
「お、おかしいのは石川くんだから!!弟子贔屓がひどいよ!!」
あまりにも恥ずかしくて両手で顔を覆った。
もしかしたらゆるキャラ的な可愛いかも知れないけど、いやそれでも恥ずかしい。
「そういうところも可愛いね」
だけど彼の可愛い攻撃は続く。クスクス笑いながら反応を面白がってるみたいだ。
「もう!やめて!そんな訳ないよ!」
「そんなことあるよ」
「ばか!石川くんのばか!それ以上言ったら、今度女の子と一緒にいる時後つけるからね!」
「…ふふ…なら朱里のそばにだけいようかな」
「も、もう!!脅しじゃないから!音声バッチリ聞いちゃうんだからね!!」
のぼせてしまうんじゃないかというくらい熱くなる頬。
”可愛い”なんて一番似合わない言葉だ。それを大学1のイケメンに言われるなんて、心臓がおかしくなっちゃうよ。
「ほら…いつまで顔を隠してる気?」
「やだ!見ないで!!」
「見せてよ。照れた顔」
「やだやだやだやだ!師匠の頼みでもそれは絶対無理!!!」
可愛いなぁ
なんて声が石川くんから漏れれば、もうどうしようもないくらい体温は上昇していた。
未だに視界が真っ暗の中で、声が聞こえないように”やだ”を連発していると、ソッと手首を掴まれてしまう。
「あっ!」
気付けば楽しそうに笑う師匠の顔。
「リンゴみたいだね」
「石川くんがからかうからでしょ!」
「からかったつもりはないんだけど。」
彼の瞳に映る私は、やっぱり普通の朱里。
どこからどうみたら可愛いのかわからないし、石川くんの方が美しいのは確かだった。
ギュッと手首を握られたまま、師匠がジッと私を見つめる。
「君を食事に誘った男は見る目があるみたいだね。」
そしてポツリと静かな声で呟いた。
「いや…ない方だよ」
「…いくの?食事」
さっきまで楽しい雰囲気で会話していたのに、どこか空気が変わる。
気のせい?石川くんの顔が少し強張ってるような…
「ど、どうしていいかわからないから…意見が欲しくて。ほらまだ身体はこんなだし。」
掴まれてる手も心なしか痛い。
「行くなって言えば行かないのかな?」
「…え?」
ソッと解放された手。
よく聞こえなかった言葉をもう一度聞こうとすると
「俺にはわからないよ。」
と彼は言った。
「…あ、そ、そうだよね」
「…行くのも行かないのも朱里の自由だからね。俺が言えるのはそれだけ。」
なんでもかんでも俺に聞くな。
そう言われた気がして、浮かれてた自分に腹が立った。
頼りすぎてた?自惚れすぎてた?
そんな不安が過ぎって無理やり笑う
「…ご、ごめんなさい。自分で考えます…」