石川くんにお願い!
まっすぐ見つめられていると吸い込まれてしまいそうだった。少し切なげに見える石川さんくんの顔。
最近彼はよく女の子の誘いを断っている。もしかしたら私がすぐに頼るせいじゃないだろうか。
私と付き合ってるなんて噂もたっていて、迷惑もかけた。石川くんが優しいからって何でもかんでも頼るのは良くないよね。
「……変わるために一歩進めるかもだし、前向きには考えてみる。」
「そっか…」
広大くんが誘ってくれたのはいい機会だったのかも。頼りすぎないで自分で解決方法も探さなくちゃ。
と考えた上の発言。
「いつまでも石川くんにべったりなんて迷惑だもんね。師匠から卒業できなくなったら困るから色々試してみる!また修行の成果を報告いたします!」
私がそう言って敬礼をすると、どこか寂しげな顔で石川くんが笑った。だけどすぐに元に戻って
「頑張れ」
と声をかけてくれる。
「はい!今日バイトだからまた明日ね!連絡するからね!」
笑顔で手を振って去ろうとすると、グイッと引っ張られそのまま手の甲にキスされた。
…王子様がお姫様にするやつだ…
思わずドキッとしたよ。力強い腕とは裏腹にキスが優しいんだもん。さすが石川くん。
「また明日ね…」
「う、うん!また明日」
ソッと離された手。私はそのまま彼に背中を向けて、大学の門まで向かう。
「頑張れ…か。」
…なんだか元気なかったよね。
本当になんとなく感じたことだけど…石川くんの様子おかしかった。
バイトへ向かう道中、私は先ほどのやり取りを考えていた。
…石川くんに心配かけたくなくて広大くんとのことを前向きに考えると言っちゃったけど、少し怖いのが本音。だって相手は大ちゃんの友達だもん。
しかも別れてから一ヶ月も経ってない。
ほいほいついていくのはどうなんだろう。大ちゃんへの嫌がらせとか思われないかな。
私はもう何を言われてもいいけど、そうなってくると広大くんに失礼だ。
「はぁ…」
自分で全く解決策を見つけられなさそうで思わずため息がこぼれた。
私はきっと石川くんにはっきり答えをだしてほしかったんだ。
行った方がいいよ。
か
行かない方がいいよ。のどちらかを。
師匠からの言葉ならきっとどちらも意味があるだろうからすんなり受け入れて行動できたのに。
「それがダメなんだよね…」
こういうのが甘えすぎてるというんだ。とまたため息が出る。
結局こんな短時間で答えは出せないまま、いつものように働くしかなかった。
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平日だというのに忙しかったお店。
バタバタと上がった後スマホを見ると、広大くんからRINEが来ていたことで忙しさで飛んでた悩みの種を思い出す
明日の夜に食事に誘われてるんだもん。お昼までには返事をしないと失礼だ…
そう思った私はバイト先から家に帰ってからゆっくりと文字を打った。
今日はわざわざありがとう。大ちゃんのことがあったから、色々悩んでてごめんね。食事のこと明日のお昼までにはするから待っててね!
素直に悩んでる理由を送っておく。その間にお風呂に入りあがってくる頃には返事が来ていた。
大丈夫!!落ち着いてからでもいいからね。
朱里ちゃんに合わせる!ありがとうー!!
明るいスタンプ付きの返事についつい和む。広大くん良い人なんだもんなぁ…断る理由はないと思うんだけど。
ベッドに寝転がって私もスタンプで返しておいた。
明日のお昼までの気持ちに身を任せるしかなさそうだ。