石川くんにお願い!
結局なにも決まらないまま朝が来て、ため息交じりで大学に向かった。
行くか、行かないかこの際花占いとかで決めちゃおうかな…って投げやりになったら失礼だよね。
いざとなると自分ではっきり決められないのが私の悪い癖だと思う。
大学の敷地内に入り何度目かのため息が口から出た刹那
ベンチで輝かしいオーラを放ったイケメンが、座り込んでるのを見つけた。
「…石川くん?」
まさかと思って目をこすってみたけれど、やっぱり見間違えるわけがない。あれは間違いなく石川くんだ…
どうしてあんなに目立つところでボーッとしてるんだろう。そう思ってゆっくりと近付いた。
他の女の子達も気付いてはいるみたいだけど、どこか近寄り難い雰囲気が彼にはある。そのせいか噂をして通り過ぎていくだけだった。
…様子がおかしいからきになる…声をかけてもいいかな。
ポンポンと力ない彼の肩を叩く。
「石川くん」
そう呼びかけるとバッと振り向いてどこか虚ろな目で
「朱里…おはよう」
とそう言った。
「おはよう…体調良くないの?大丈夫?」
「いや…昨日何故か眠れなくて…」
眠れなかった?…なにか不安なことでもあったんだろうか。あ、でも良く見ると目の下にクマが出来てる…
「保健室いく?」
「…いや…行っても寝かせてくれないだろうし」
石川くんの言葉で頭に浮かんだのは保健の先生。
確かに……寝かせてくれないだろうなぁ。肉食系女子って感じだもん。
「ねぇ石川くん…今日は帰ったほうがいいよ。なんだか頬も赤いし」
「ああ…昨日お風呂でもボーッとしちゃって、上がってからも裸で考え事してたからかな。」
「え、は、裸で!?」
何がそんなに彼を悩ませているのかわからなくて、ソッと師匠のおでこに手を当てると少しばかり熱かった。
「…やっぱり少し熱い。倒れちゃうよ?」
そんな私の手を石川くんは優しく握ると、弱々しい笑顔を向けてくる。
「大丈夫だよ…大したことない。それに断りきれてない女の子もいるからね…」
全然大丈夫じゃなさそう…無理矢理帰らせたほうがいいかも。
そう思っていると私の手を離した彼は立ち上がり、ポンッと頭に手を乗せてきた。
「君も行くんでしょ?今日…」
「え、あ、」
「俺のことは気にしなくていいから…楽しんできてね。」
そしてそのまま頭を撫でると、背中を向けて去っていく。
…いま…なんとなくだけど距離を感じたのはどうしてだろう。
それが寂しくて小さくなっていく石川くんの背中から目が離せなかった。
「あ、翔平先輩だ…」
まるで足から根っこが生えたみたいに固まっていると、そんな無邪気な声がして要くんが足早に私を通り過ぎる。
「あ、か、要くん!!待って!!!」
私の大声にピタッと止まって彼はキョロキョロしていた。そして私の姿を見つけると
「あ、朱里先輩…翔平先輩に夢中で気付きませんでした。ごめんなさい」
とこちらに戻ってきてくれる。
「ねぇ…要くん。石川くん熱があるみたいなの」
「……え、あ、そうなんですか?」
「うん。昨日ずっと考え事してたみたいで…それで」
私の言葉を黙って聞いてくれてる要くんは、ちらっと石川くんが歩いて行った方向をみたけれどすぐにこちらに視線を移した。
引き止めちゃって悪いことしてしまったのはわかっているけど、要くんも私と同じくらい彼の様子を知っているはず。もしかしたら何か知ってるかもしれない。
「何をそんなに悩んでるのか知らない?熱が出るくらい石川くんを困らせてるものって何なのかな…」
ポツリとそう呟くと一瞬要くんの肩が震える。
同じ弟子として情報交換が出来たらなっていう気持ちだった。
「……朱里先輩…わからないんですか?」
「え、はい」
「…昨日だけに限らず、翔平先輩は最近変です。…そのおかしい理由は」
何か言おうとしてくれたのに…先を言わずに黙り込んだ要くん。
そしてすぐに困った顔で笑うと
「…僕もわからないから、朱里先輩に聞きたかったんですけど」
と続けた。
「あ、そっか…やっぱりわからないよね」
「はい。でも心配ですよね……僕、大丈夫か声をかけてきます。」
「うん。私も気にしておくね。弟子仲間の要くん頼りになるっ!!」
ニコッと笑うと彼もニコリと返してくれる。
「朱里先輩ってすごく優しいんですね。お話できて嬉しいです。」
嬉しい褒め言葉をつけて。
そんなつもりなかったからかなり否定しておいたけど。
それにしても要くんでも…わからないか。
心配だな…すごく。