石川くんにお願い!



「ありがとう。翔平くん」

チュッ

と鳴ったリップ音。


やっと終わった…

ホッとした私は女性のパンプスのヒールの音が小さくなったと同時に、ばれない程度に顔を出した。


「……はぁ…」

浮かない顔の石川くんは少し汗をかいていて衣服が肌けており、とんでもないフェロモンを発している。

…鼻血出そうなんですけど。

思わず手を合わせて


「ごちそうさまです」

と拝んでいたら彼はボタンを付け直し去って行こうとした。

…あ…まずい…
こんなのまたとないチャンスなのに。これを逃せばまたしばらくお預けだ!


そう思った私はゴクリと息を飲み、彼の前に立ちはだかろうと覚悟を決める


…まずは自己紹介して、それから…

って私の足すんごい震えてる…!!一歩がなかなか出てくれないんだけどっ!!


おまけに頭では色んなことを考えているので、その間に石川くんは私の前を通り過ぎてしまった。

だめだ…いかなきゃ!


「い、石川くんっっっ!!」


バッと茂みから出た瞬間

彼がこちらを向いたのはわかったけれど、なにもないのに足元が絡まったせいで見事にその胸にダイブする


「!!?」

どさっっっ!!

「い…いたた……ってあ!」

どこでどうなったんだろ…
私石川くんの上に馬乗りになってる!!これはなんという美味しい展開…ってそうじゃなくて!

「…あ、…あ、ご、ごめんなさ」

「……いや…びっくりした…」

どかなきゃいけない
お願いしなきゃいけない
自己紹介…
っていうか石川くんいい匂い…


頭の中でグルグルと色んなことがまわってどの言葉を選べばいいのか全く分からなくなったんだと思う。


「間宮朱里!19です!!趣味はスイーツ食べ歩きです!いい匂いの石川くん。どうか…私を助けてください!!」



私の魂の叫びにぽかんと口を開けた彼

「…え?」

それにつられてぽかんと口を開ける私

「え…?」

しばらく2人で黙り込んで私は更に混乱した


「あ、ちが…え、あ、石川くんに私の身体改良してほしくて!!」

「…か、改良?」

なに言ってんの。私…!!
サイボーグじゃあるまいし!!!



「と、とりあえず抱いてください!!」

いやこれもなんか違うっっ!!!

「……約束してたかな?」

「あ、いや…その…ちが…彼氏に…浮気されて…」


今度は人生相談し始めちゃったよ。
なにしてんの私は。石川くんすごく困ってる…


自分のバカさ加減と浮気というキーワードに涙がこみ上げてきた



「私が…不感症だから…親友に彼氏を取られたの……お願いします…助けてください…」


ポロポロと何故か溢れ出た雫


さっきまで忘れていた傷を自分でえぐったからだと思う。こんなの石川くんに訴えられても文句言えない。


そう思っていたら優しく涙を拭われた。



「……それは相手が悪いんじゃない?」
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