石川くんにお願い!
ここはベッドの上であり、私の手はしっかりと石川くんに押さえつけられて動くことすらままならない。
彼は荒い息と共にとんでもない色気を放出して、私を魅了していた。だけど石川くんの熱い手が必死に私を冷静にさせる。
「い、石川くん……悪化しちゃうといけないから…離して。ね?」
なだめるようにそう言ったって、彼の手は一向に緩まってくれない。
「朱里が…誘うからいけないんだよ。」
それどころか甘い声で囁いてくる。
「さ、誘ってない!私はただ、看病を!!」
「キスはやめとくね…移すと悪いから…」
石川くんの熱い身体に触発されてか、私の身体も熱くなっていった。
ダメだ…ダメダメ。これはまずい。
そう思ってジタバタしてみるけれど、全くもって動けない。そうこうしているうちに首筋にキスが落ちてきた。
「…っ」
怖いなんて思う暇もない。
このまま…流されてもいいかもなんて少しだけ思ってしまった。
「……朱里…」
「石川…くん…」
彼のせいで熱いのか私の体温が上がったせいで熱いのか最早わからなくて。そのままじっと見つめあった。
……ドキドキする…すごく。
「…あ、あの」
相手は病人だよ。なんて私の理性が働いたので、おずおずと声を出したらグッと彼の手に力がこもった。
「……このまま…俺のものにしてしまえば……俺無しじゃ生きられない身体にしてしまえば……君は他の男の元に行くなんて言わないのかな。」
それはとてもとても切なげな声。私に訴えかけるように、彼の長い睫毛が揺れる。
「…ねぇ…朱里……どうか…このまま…」
私を掴んでる手が震えてた。何を伝えたいんだろうと必死に考えた結果、やっと”他の男”という意味を理解する。
広大くんの…こと…だよね?
まるで今にも泣いてしまうんじゃないかと思うくらい、弱っている石川くん。彼はすがるように私の肩に顔を埋めた。
頬に触れる髪がくすぐったい。耳元で聞こえる吐息が、とても辛そうだ。
「…石川くん…まず着替えよう。このまま、また熱が上がったらもっと辛いよ。」
緩まった石川くんの腕から逃れた私の手が自然と彼の頭に向かいそのままなだめるようにポンポンと撫でた。
「………」
「熱冷まシート貼ってる病人が弟子を襲ってはいけませんよ。師匠。ね、今日はゆっくり休もう?」
私の言葉を聞いてゆっくりと起き上がった石川くんは、力なく笑いかけてきた。
「…そうだった…ごめんね。頭がクラクラする」
ふらふらと起き上がった彼は、私が脱がしかけていた服を完全に脱いでしまい、そのままタンスからロンTを取り出して着替えを完了。
そしてその勢いのままズボンのベルトをカチャカチャとならした。
…見ないようにしなきゃ!
なんて目を両手で覆う私。
そんなことをしてる間に、石川くんはスエットズボンに着替え終わっていた。
「ごめんね…もう帰って大丈夫だよ」
迷惑かけたね。なんて呟いてベッドに戻ってきたのだけど、そのまま座っていた私の太ももに頭を乗せてきたではないか。
…え、ひ、膝枕?
「か、帰っていいよって、行動と言葉が一致してないよ!石川くん!!」
あまりの恥ずかしさにそうは言ったけど、下から色っぽい表情で見つめられては、まるで魔法をかけられたみたいに動けなくなった。
「…最後のわがままだよ…眠るまででいいから。食事には間に合うように…ちゃんと寝る…」
…今日の石川くんは、こちらが恥ずかしくなるくらい甘えん坊さんだ。
思わずソッと彼の頬に触れると気持ち良さそうな顔をした。
うう…緊張する。これじゃあトイレにも行けないよ。今日はあんまり水分とってないから大丈夫かな……
「スポーツドリンクでも飲む?」
「…朱里の口移しなら飲む…」
「も、もう!!またそんなこと言って!」
辛そうだけど本調子に戻ってきた彼の頬を優しくペチンッと叩いたら、クスクス笑っている。
「ふふ…痛いよ…朱里」
……普段はとてもかっこいいのに、今日は凄く可愛い。私、弟子ということだけでものすごく得してるんじゃないだろうか。
石川くんのファン達ごめんね…なんて冗談っぽく心の中で呟いて彼のおでこに張り付いた髪を撫でるように剥がした。
「…石川くん…寝なよ。昨日寝てないんでしょ?」
「そうしたいんだけど……起きたら朱里がいないと考えたらなんだかね…」
「今日の石川くんは甘えたさんだね。」
私の言葉に石川くんは
「どうしてだろうね……君が相手だと自分がどうしたいのかわからなくなる……」
なんてゆっくり瞼を閉じていく。
「風邪のせいだと思うよ。ゆっくり休んで…側にいるから。」
”側にいるから”この言葉が効いたのか、彼は私が頬に触れている手をソッと握ってそのまま夢の中へ落ちていった。
焦らなくてもいいと石川くんが言ってくれたこと、私はすぐに忘れてしまいそうになる。大ちゃんと華奈のことまだきちんとしてないのに、広大くんとどうにかなろうというのは無理だよね。
…師匠のことも心配だから今日は断ろう…。こんなに弱った彼を置いて行くなんてできない。
「おやすみ…石川くん」
だっていつも…私が辛いときに側にいてくれたのはこの人だもん。私も…そうしたい。