石川くんにお願い!
とりあえず石川くんが熟睡したのを見計らって、そっと頭の下に枕を挟み私は自由の身となった。なので少しだけ休んで再びコンビニへ。
起きたらお腹空いてるよね…雑炊でも作ってあげよ。
なんでも揃う品揃えの良いコンビニで、焼き鮭と卵とネギを買って、彼の家の扉をそっと開けた。
するとまさに今起きたのか、石川くんはベッドの上でキョロキョロした後ため息をついて頭を抱えている。
「…いないか…」
そして静かに呟かれた声に、私は首を傾げ
「なにがいないの?」
とコンビニ袋を持っていない方の手で扉と鍵を閉めた。
「……朱里っ??」
幻でも見ているのか。石川くんそんな顔してる……私が机に荷物を置くとゆっくりと立ち上がってノソノソと歩いてきた。
「おはよう。熱は下がったかな?食欲ある?」
ソッと背伸びして石川くんのおでこに向かう手。しかし、届く前に彼の手に捕まってしまう。
「どう…して?」
「え…?」
まるで確かめるように私の髪に触れ、頬に触れ、肩に触れ、何度か目を擦ってジッと見つめてきた。
「本物だよね…熱で幻でも見てるのかと思った。」
らしくない石川くんの言葉に、ジワジワとこみ上げる笑い。
幻って……
「…ははっ…なにそれ」
「だって食事……」
ああそうか…目が覚めたら私は行ってると思ってたものだから、熱と寝起きの頭でこの状況が理解できないんだ…。
「風邪で辛い時は誰かと一緒にいたいでしょ?私は石川くんの弟子だもん!!お断りしたので今日は看病するの!」
袋の中から材料を取り出し、そう言えば彼はとても嬉しそうな顔で笑った。
「そっか…」
「いい弟子を持って幸せでしょ?」
腕まくりをして、石川くんに背中を向けて手を洗う。
「…あ…自分家の感覚で勝手にキッチン使うところだった。料理とかしても大丈夫??」
「うん…」
「よかった!待っててね!」
お鍋はどこだろう…
と探しているとフワリといい香りに包まれた。
それが抱きしめられたと気付くのに時間はかからなくて、え?と身体を強ばらせる。
「い、石川くん?」
な、何故?
私の頭に擦り寄ってるよね。これ。まるで甘えた猫みたいにスリスリされていて、心臓が速くなってきた。
前はキッチン、後ろは師匠。
とんでもない状況に思わず何をしようとしているのか忘れそうになる。
「…安心した……」
そして甘い甘い声でそう囁かれてノックアウト。
…これは熱が出て、絶対誰かに甘えたいんだ。相手が私で申し訳ないけど、石川くん可愛すぎる……
「そばにいるってちゃんと言ったでしょ?」
「うん…言ってた……」
「ほ、ほら、石川くん!もうどこにもいかないからとりあえず座って!私雑炊作る!」
背中越しから伝わってくる彼の熱。まだ立ってるのも辛いんじゃないかとそう促せば、キッチン台に置かれていた石川くんの手が、私のお腹に移動した。
ハッ!とそれに気づいた時には、うなじにキスが落ちてくる。
ガッチリ抱きしめられながらのキス。
師匠のサービスタイム!?!?
と恥ずかしくなり、思わず逃げようとしてしまったけど、彼の手がそれを許してはくれなかった。
「い、石川くん…??」
ソッと名前を呼べば緩まっていく手。
「ね、熱また上がるよ……」
そして再び声をかければ、彼は私から離れた。
「雑炊なんて久しぶりに食べる…」
嬉しそうな声を出した石川くんに視線を移すと、子供みたいに笑ってた。
…私これってすごく貴重な経験してるよね。すごいっ!!
「す、すぐに作るからね。いい子は座って待ってましょう!」
思わず子供に言い聞かせるみたいになっちゃった…そう思っていたらクスッと笑った彼が
「…朱里…これはなんのプレイ?」
なんておかしなことを言い出す。
「ぷ、プレイじゃないよっ!!石川くんが子供みたいに無邪気に笑うから、お母さんっぽく返しただけ!」
「…俺…そんな顔してた?」
驚いたような石川くんの顔に、私は首を縦に振った。可愛い笑顔だったよ。なんて言ったら怒られちゃうかな。
「…女の子に子供みたいだなんて言われたのは初めてだから、変な感じだ…」
「…そ、そうですか」
「本当はもっとくっついていたいけど、今日は大人しくいうことを聞くね」
なんとも言えないくらい可愛いことを言った彼は、言葉通り大人しく座った。
も、もっとくっついていたいけどって!!
今日は、風邪のせいでこうなってるけど、石川くん彼女になる人にはこんな風になっちゃうのかな??
……私が相手だとコント臭が消えない……でも美味しい展開だった。ご馳走様です。
そんなことを考えらながら私は彼に特製雑炊を作ったのであった。