石川くんにお願い!
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なんだろう。さっきからずっとつーちゃんの視線を感じる。私……何かしたかな?
借りたノートに落書きしたことに怒ってるのかも。あ、それとも教授がカツラみたいって言ったから?
「ねぇ…朱里」
隣で私をじーっと見ていたつーちゃんが、今やっと口を開いた。
「な、なに!?やっぱりカツラなのかな?」
「いや…なんの話。それより…昨日何かあったの??」
いきなりの質問にへ?と間抜けな声が出る。
昨日といえば石川くんの看病をしていた日。
何かあったといえば何かあったのかもしれない。だけど、つーちゃんにその事は1つも伝えてないのに。
「んー…まぁ何かあったのかな?どうして?」
「じゃあそれはわかってて見せてるのね。」
「見せてる…?何を??」
全くもってわけがわからなくて大袈裟に首を傾げた。すると私の髪にソッと触れ
「…その反応を見ると虫刺され?でもどう見てもキスマーク…」
なんてため息を吐く。
”キスマーク”?
キスマーク…!?
無意識にそこに触れたけど、指先だけでわかるはずがない。そんな私を見かねた彼女は、カバンから鏡を取り出して渡してくれた。
ソッとつーちゃんが言ってくれた首筋を見た途端、止まる私の時。
「え!?」
これは虫刺され??いやでも…痒みとかないし………でも待って。
思い出すのは昨日の出来事。
石川くん私を押し倒した後、この辺りにキスしたよね。
『……いや…食事に行ってたら気まずくなってただろうなって。』
私の脳が昨日の師匠の言葉を蘇らせる。
『……そんなつもりじゃなかったのに…ついね』
ここで全ての辻褄が合ってしまった。
「…あ…あ」
「ちょっ…講義中!!」
つーちゃんは叫ぼうとした私の口を塞ぐ。
確かにこれは広大くんに見られたら気まずい。昨日、知らないまま食事に行ってたら間違いなくドン引きされたことだろう。
自分ではわからないけど、人からみたら絶対すぐにわかる位置だ。キスマーク見せびらかして、私昨日激しかったのーって言ってる女子高生見たことある!!
だけど私は何もしてないよっ!!
「ど、ど、どうしよう」
「どうしようって…それ誰がつけたの?」
「いや、あ、こ、これは…いやそれにしても私広大くんに謝りに行こうと思ってたのに。まずいよね?」
慌てる私に落ち着き払っているつーちゃんは
「まぁ…食事に誘うほど気になってる女の子がそんなものつけてきたら相当ショックだと思うけど。」
と明確な言葉を放つ。
「……うわ…まさか…熱で苦しんでたとは言え、石川くんがこんなことするなんて…」
「…え、あんた石川くんと?」
「いや!してない!してないしてない!あり得ないよ!」
再び首筋に触れた。
石川くんのことだから何か考えがあってのことだろうか…だけどこれじゃあ…俺のものって言われてるような…
思わぬ勘違いをしそうになって、ブンブンと首を振る。弟子の分際でおこがましいぞ!!私!
「なんだか大変そう。よくわからないけど頑張って」
つーちゃんは自分には関係ないことだと割り切り、巻き込まれたくないという判断をしたようだ。
”頑張れ”とあっさり突き放してきたことで、貴女の考えることはわかりますよ。
なので私もそれ以上、詳しく話したりはしなかった。
今日は行けないな……広大くんのところ。
石川くんはもう1日休むって言ってたし、大人しくしてよう……。
そう思って気配を消しながらイソイソと大学を移動する。しかしこんな日に限って廊下でばったり華奈とお見合い状態になってしまった。
「あ…」
「あ。華奈」
つい二ヘラと笑った私の首筋に彼女の視線がいった気がする……ダメだ。見られてる!
「そ、それじゃあまたね。」
私はこの場から逃げるように慌てて走り去る。このまま広大くんに会っても困るよ。どうしよう……
これで冬ならマフラー巻けばよかったんだけど、いまやると余計に目立つしな……
知り合いに会わないようにひっそりと物陰に隠れて、覗き込んだ。仕方ない。このまま一気に走って…
「…朱里先輩…何してるんですか?」
「ぎゃっ!」
思わず飛び跳ねて恐る恐る振り向くと、要くんが笑顔で立っていた。
なんでこんな日に限って……知り合いに会うの!?
何かのお導きなのか思わず顔が歪む。
「今日…翔平先輩がいらっしゃらないので、朱里先輩のこと探してたんですよ。」
「え、あ、そ、そうなの?石川くんは風邪で今日はお休みで」
「そうなんですか?大丈夫なんですか?」
お話ししてくれるのは心の底から嬉しい。だけど今日に限っては、きつい!
キスマークだけに自分の意識が集中して、要くんの話が耳に入ってこなかった。
「…朱里先輩…どうしたんですか?ソワソワして…」
「え、ソワソワなんてしてないよ!!」
見えないように身体を傾けてみたりしているけど、余計に怪しいかもしれない。だけど今さら堂々とする度胸もない。
不思議そうな顔した彼は、時計に目をやると
「それじゃあ…僕いきます」
と笑顔をこぼした。
「う、うん!またね!」
「あ、朱里先輩」
「は、は、はい!」
「首元…虫に刺されてますよ」
あ、これバレてる
だけど幸い要くんが純粋だったことで、虫刺されで通せそうだ。
「え、ほんと?教えてくれてありがとう!なんか痒くてー」
「…いえ、それじゃあ。」
要くんに手を振って別れたところでやっと肩の力が抜けた。
これから…しばらくこうなんて地獄だ…