石川くんにお願い!
守られたプライド
石川くんがつけたキスマークは思った以上に私を悩ませた。大学だけではなく、バイト、家族の前と。誰かに見られてるんじゃないかという被害妄想までして、毎日気が気じゃなくて。
更には広大くんに失礼なことをしたまま避けているという最悪な展開になってた。
ありがたい事に土日を挟んだおかげで不自然ではなかったはず。そして今日やっと紅い痕が見えないようにはなっていた。
ちゃんと広大くんに会いに行かなくちゃ。
とスマホのスケジュールを開きお知らせアラームを設定して置いた。
「……石川くん大学来てるって言ってたよね…」
スマホをカバンにしまって、いつもの如く大学で師匠の姿を探す。どういう意図があってキスマークつけたのか聞こう!!
特に意味はないとか言われたら、尊敬してても怒っちゃうんだからね。
この数日の自分の動きのぎこちなさや対応を思い出して、恥ずかしくなった。
……もちろんキスマークが嫌だったわけではなかったんだけど。
いつも石川くんが女の子達に囲まれる付近に近付くと、やっぱり彼はいた。もはやあの場所も定位置かもしれない。
だけど1つだけ違うのは、側にいるのが女の子ではなく、要くんだという事だ。
何…話してるんだろう?
「あの…翔平先輩はどうして最近女の子の誘いを断られてるんですか?」
「……別に…その気にならないからだよ。君に関係ないと思うけど。」
「最近変ですよ……お身体大丈夫ですか?それとも特別な理由があってその気にならないとか?」
「……特別な…理由…?」
「……あの…例えば…」
要くんが俯いた瞬間
石川くんがこちらを向いてバッチリと目が合った。
「朱里!!」
そして私の名前を呼ぶと、満面の笑みでこちらに歩いてくる。要くんはその姿を驚いたように見ていた。
「…石川くん…もう身体は大丈夫?」
「朱里が看病してくれたからね。大丈夫だよ。」
「か、看病ってほどではないですけど……要くんと話してたんでしょ??また後で…」
彼に悪い。とその場から去ろうとすると腕を引かれて首筋を撫でられる。
「もう…消えてるね」
これはまずい。要くんに聞かれたらとんでもない事だ。
だって彼は虫刺されだと思ってるんだから。
「あ!あー!い、石川くんに話があるの!後で…いつも話す場所に来て!」
「後?後と言わず今でもいいよ」
「で、でも…こ、講義もあるし、それに」
寂しそうなもう1人の弟子がいるのに!と私は石川くんから離れようとする。だけどそれは許してもらえないみたいだ。
それを見兼ねてなのか要くんは、空気を読むように行ってしまった。
ああ…ごめんね…要くん。
私が…後から来たのに。
胸が申し訳ない気持ちで一杯。そんなことはお構い無しに、石川くんはイケメンオーラを放出している。
「い、石川くん!要くんが」
「……会いたかったよ。朱里」
少し意見しようとしたにも関わらず、この言葉1つで私はそれを飲み込んでしまった。
こんなこと言っちゃうんだもんなぁ。
ズルいよ…ほんと。
こんなに弟子を甘やかし過ぎるのは良くないと思うっ!!
「わ、私も会いたかったです!とにかく石川くんが元気になってよかった」
「……沢山元気をもらったからね。」
今日の彼はいつも以上に笑顔が輝いてるな。というのが数日ぶりの感想。…こんなに笑う人だったかな?石川くんって。
「話したいこといっぱいあるからね!!講義終わったあとに会いに行く!」
「…わかった。楽しみにしてる」
大学のベルに促されて、一旦彼と離れた。
…要くんの方はどこか真剣で大切な話をしてるみたいだったのに、良かったのかな。
と先程のことを思い出し、また申し訳ない気持ちが湧いてくる。
会ったらキチッと邪魔したことを謝らないと。
広大くんに引き続き、謝る人が増えてしまったとため息を吐いた。
**************
いつものようにつーちゃんと講義を受け、終わったと同時に石川くんと約束した場所へ。
彼もいまきたようで、朝となんら変わりない笑顔を私にくれる。
「…お疲れ様。」
「お、お疲れ様!!」
座る?と言われたのでとりあえず2人で座り込んだ。
「そうだ…話があるんだったね。」
石川くんにそう言われて
「…どうして?」
といきなり私は疑問から入ってしまった。
「え?」
「石川くんどうしてキスマークなんか付けちゃったの!!大変だったんだからっ!!!」
大人しく意図を聞くつもりだったのに、とりあえずどれだけ大変だったか伝えたいという気持ちが勝ち、思わず叫んでしまったではないか。
「どう頑張っても人から見えるし、バイトは更に髪をあげなきゃだし、ものすっごく苦労したんだよ!!」
必死な私と吹き出す石川くん。
なんて対照的なんだろうか。
「…いや…ほんとにごめんね。不可抗力だったんだよ。普段女の子に痕をつけるなんて絶対にしないんだから。」
怒ってる?と首をかしげる彼にブンブン首を振る。
「お、怒ってない!怒ってない!とにかく大変だったということを伝えたかっただけ……広大くんのことも避けちゃってて」
「そう。避けたの」
ニコッと何故だか嬉しそうな顔をした彼を、私は不思議に思った。
え…嬉しそうにする瞬間あったかな?
怒ってないって言ったから?
不感症も治ってないというのに、そんな行為をしていると思われるのも困るからさ…と話してるのにニコニコニコニコと私の師匠は笑ってる。
「……石川くん聞いてる?」
「うん。もちろん」
「あ、後、華奈にもあって見られたんだよ。きっと大ちゃんの耳にも入ってる…あ、だとしたらやっぱり広大くんにも知られちゃったかな?」
1人で騒ぎ立てる私を見て石川くんは、私の腕を引いた。距離はわずか数センチ。
「…元彼に捨てたこと後悔させるんでしょ?プライドも傷付けてやればいいよ。」
「あ、だ、大ちゃんはそうだけど、でも広大くんは」
私の髪をかきあげて、この前まで紅く主張してたそこをツゥとなぞった彼はいたずらに微笑んだ。
「……っ!」
「……もう一度つけとこうか?」