石川くんにお願い!


突然の要望に開いた口が塞がらない。
どうして石川くんが私なんかにキスを求めるんだ……謎。


「…いいでしょ。朱里。キスしたらアドレナリンもでるし、不感症治すのに最適だと思わない??」

「だ、だめ!それは良くない!」

「どうして?恥ずかしい?」



唇に触れられて、身体が震えた。
だめだ…キスなんてだめ…


「だって、これはご褒美じゃないですか!!」


お詫びをすると言ってるのに、私にとって美味しい展開というのは心のそこから申し訳ない。なのでそう叫んだのだけど、この発言に今度は石川くんがポカンと口を開けた。



「ご褒美?」

「そう!だって天下の石川くんとキスだよ!そんなこと周りの女の子が知ったらきっと師匠に迷惑ばっかりかけにくるよ!私も罰して。なんて!!だから良くない!!これはご褒美だ!」


真面目に話しているというのに、この言葉を聞いた彼はプッと吹き出す。いま笑うところじゃない!と思いながら話を続けた。


「どうせやるなら罰金とか鞭打ちとか罰系のものにして!!キスなんて懺悔した私の心が許してくれないよ!!」

「鞭打ちかぁ…さすがにそこまでアブノーマルに興味はないかなぁ…」


相変わらずおかしそうに呟いた石川くんに、私はブゥと頬を膨らませる。そんな私の両頬を片手でたやすく覆って、口の中の空気を出した彼は



「なら…罰じゃなくて修行は?」


と提案を出してきた。




「修行!?」

「そう、修行の一環にキス」


そう言えば…服を一緒に買いに行って以来、ちゃんとした修行してない。


「も、もちろん!修行ならさせていただきます!!」


師匠の言うことに間違いなし。と言わんばかりに、手のひらを返した私はぐっと拳を作って覚悟を決めた。


「朱里って…キスは怖くないの?」


すると石川くんから優しく質問が来る。


「私…1番キスが好きなの。唯一心地よくて、幸せになる行為だったから。」


だけどまぁ…そのキスがヒートアップしていけば、それ以上が待っているわけで

そこに行くまでの過程としてされるものは、あんまり好きじゃないかもしれない。


ああ…でも前に石川くんがしてくれたキスは、身体がピンと伸びちゃうほど気持ちよかったなぁ……


「そうか…いいこと聞いた」


その言葉が合図のように唇をなぞられて、彼の美しすぎる瞳に吸い込まれそうになった。


これは、間違いなくキスが来る!!


そう予感した私はギュッと目を瞑る


脳がキスが来るぞおぉおおおと信号を出したせいで、心臓が恐ろしいくらいバクバクと音を立ててた。


目を瞑っていても、近づいて来る気配を感じる……


ああどうしよう!!
心の中ではお祭り騒ぎで、ついに鼻先が触れた。その瞬間



ピリリリリリリリリ!!!!



ムードの無さすぎる音が大きく鳴り響きこの雰囲気をぶち壊した。



「……わ、私のアラームだ。はは」


せっかくの修行なのにと、カバンを探る。
石川くんは不思議そうな顔で


「こんな時間にアラームかけてるの?」

と聞いてきた。


「うん。というかスケジュールに入れといたの。広大くんに謝りに行くって。ずっと避けてたし申し訳ないからさ。ジュースでも買って会いに行こうかなって…」


あ…スマホがあった。


かばんからそれを取り出した正にその刹那



グッと強くその手を握られたせいで、アラーム音が響いたまま手の中からスマホが滑り落ちる。



あ…と考える暇もないまま強く頭を押さえつけられ噛み付くようなキスに唇を奪われた。



「んんっ!!!」



あまりに急だったので目をパチクリさせる。だけどすぐに口の中を犯す彼の舌に翻弄されてしまった。



…ああ…やばい。
なにも考えられない。


苦しいけど確かに気持ちよくて、すべてを奪ってしまうようなその甘いキスに私の脳は麻痺している。


未だにアラーム音は鳴り響いていて止まる気配を見せない。


求めるように彼の背中の服をギュッと握って、必死にそのキスに答える努力をした。


あまりの気持ちよさにガクガクと膝が揺れる。そんな私に気付いたのか、石川くんはトンッと後ろの木に私を追いやって体勢を整えさせた。



…苦しい…でも気持ちいい
逃げ場のないこの空間が興奮要素。


「…んっ…は…」


ベロリと唇を舐められて、鼻先がこすれあう。

はぁはぁと空気を必死に求める私に、甘い甘い声で石川くんが呟いた。



「…気持ち…いい??」


「気持ち…いい…」


ポーッとしたまま模範解答のようにそう返すしかなくて、満足気に笑った彼はまた唇を重ねる。


おかしい…大きな音が鳴り響いているのに耳に入ってこない。


……石川くんのことしか考えられないよ…











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