石川くんにお願い!


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とりあえず一度石川くんと離れた私は大学内を歩いていた。


師匠に一生ついていくということが決まったのは結構なのだけど、よく考えたらさっきのこと広大くんの耳に入る確率は高い。




どんどん謝りづらくなってるなぁと思わずため息が出る。華奈と大ちゃんと話していた時も、女のギャラリーが数人いた。




こうなったら噂が回るのも早いだろう。



「はぁ。」


再びため息を吐いて歩いていると、遠くの方で知っている人物の後ろ姿を見つける。


要くんだ…そうだ!彼にも謝らなきゃいけないんだった!!


「要くん!!!」


思わず大きく叫んだら、要くんが不思議そうにキョロキョロしていた。そして、ゆっくりと目が合う。しかしすぐに私に背中を向けて曲がり角を曲がってしまった。



…あれ??


目が合ったと思ったけれど、どうやら違ったみたい。周りもガヤガヤうるさいし、空耳だと思ったのかな??


自然と早足になって彼の後を追いかける。


このままだとまた謝るタイミング逃しちゃうもんね。同じ弟子として、師匠の独り占めはいけないもん。マナーを守らなくちゃ。


そんなことを思いながら角を曲がるともう要くんの姿が見えない。


「…うそ…早い。見失っちゃった……」


木が多いし、石川くんがよく使う穴場もあるし、この辺りは入り組んでて見失ってしまえば見つけられないだろう。


「…謝りたかったんだけどなぁ…」


トボトボと下を向いて歩いていたら、しばらくしたところでいきなり手首を掴まれて引き寄せられた。



「!!?」



そして思わず声をあげそうになった私の口元に誰かの手が覆われて、顔が見えないままその場から少し引きずられる。



な、な、なに!?
怖い!!!


バクバクと早くなる心臓。
この状況に頭がついていかなくて、湧いてくる恐怖心。


私の恐怖がピークに達したその刹那

解放されて、ドンッと塀に背中をぶつけた。そしてそんな私を覆う黒い影。


「…お前さ…」


聞いたことあるような声に思わず眉を寄せる。


恐る恐る顔を上げると、意外な人物が私を睨みつけていた。


「……ウザい」


冷酷に放たれた言葉。私を睨みつけている顔。
目の前にいるこの人は本当に私が知っている人物であっているんだろうか…



「要…くん?」



これは夢か何か?
だっていつもは天使みたいな笑顔をくれるのに、いまここにいる要くんは鬼のように怖い顔をしている。



「…聞いてる?ウザい」


そして言葉遣いも180度違う。
要くんが両手を塀に付けているせいで、私に逃げ場はなかった。だからだろうか…この光景を整理することができない。



「え、えっと…」

「…どうやって、翔平先輩に取り入ったわけ?」

「と、取り入ったとは?」

「……顔もブス、幼児体型、おまけに頭も悪そうなお前が、どうして翔平先輩に気に入られてんの??」



質問に質問で返せば再び戻ってきた。


要くん…だよね。
どこからどうみても。
なのに…この人は誰だと脳が混乱している。


普段はか弱そうで、繊細そうなのに、さっきの力強い腕、今こうしている迫力、とてもじゃないけど同一人物だとは思えない。



「答えろよ。ブス」


ギロリと睨まれて思わず身体が硬直した。


『朱里先輩』


あの天使は…どこに行っちゃったの?



「あ、あの…私別に取り入ったりとかしてないよ…」

「…じゃあなんで翔平先輩がお前みたいなちんちくりん女に構うんだよ。」

「……えっと……で、弟子…だから?」



あははと苦笑いしてみたけど、目の前の彼は全くもって笑ってくれない。



「笑えない冗談はやめてくんない?」


おまけに説教されてしまったじゃないか。


要くん(?)は、はぁとため息を吐いた後、私からゆっくり離れた。



「…チッ。馬鹿と話してたら馬鹿がうつりそう。」



そして普通に本人を前に暴言を吐いてる。


「…あの、ほ、本当に要くん?」

「……考えたらわかるでしょ。もう喋んないでくれる?頭が悪くなる」

「!?わ、わかりません!要くんなこんな人じゃないよ!!」



別人であってください!!
そう心が叫ぶ。そんな私に見慣れた笑顔をニコリと作った彼は


「……朱里先輩……」


といつものように天使オーラを放った。

だけどそれは一瞬の出来事で、あっという間に消えてしまう。


「これで納得しました?頭の回転悪すぎて呆れてますよ。俺」

「う、う、嘘だ!!」

「面倒くさっ」



全然納得しない私の頭。
そんな姿を彼は冷酷な瞳で見つめていた。




……これは…リアルに
二重人格というやつでしょうか?




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