石川くんにお願い!


しばらく黙ったまま要くんと、見つめあったけど、いまだに動けない。


本当に本物なのか

しつこい程マジマジと見つめていたら、鋭い目で睨まれてしまった。


「なんなんですか?間抜け顔で見ないで欲しいんだけど。」

「あ、は、はい。すみません。」

「とにかく、お前と翔平先輩じゃ月とスッポン。俺の憧れの師匠にあんまり近付くな。ブス」


ビシッと指を指されて凄まじい迫力に思わず後ずさる。


近付くなと言われても…弟子なのに。


「か、要くんは何か勘違いしてるよ。私は別に石川くんとどうこうなりたいんじゃなくて、弟子としてお側にいるというか、、」

「…はぁ?」

「き、気持ち的に言えば要くんと同じだよ!師匠の素晴らしい生き方を学んでるという」


どうしてだろう。
私が喋れば喋るほど要くんの冷たいオーラが増していった。この空気を和らげたいのに、言葉を選んでも張り詰めていくばかり。



「……こっちだって翔平先輩がお前に見向きもしなかったら、わざわざ本性晒してまで面倒くさい忠告しないんだよ。」


小さな声で彼は何か呟く。私には聞こえないようにしたのか、聞き取れなかった。



「…あ、あの私ね、実は」

このままじゃ嫌われていく一方かもと、いままであった経緯を曝け出そうと覚悟を決める。

しかし要くんはパッと私の前に手を出して、話を止めた。



「お前の話なんかこれっぽっちも興味ないから。聞いてもないことペラペラ話さないでくれますか。」


そして正に”一刀両断”。
文字通りだと感心するほどの勢いで、口を封じられた。


「いやでも」

「あーもううるさい!!黙れ!口ん中に何か突っ込むぞ!!」


…か、要くんって…ものすごく恐い。
いままでの天使イメージがパリンと音を立てて割れていく。



「大体下品にキスマークつけて歩いてる女は信用しませんから。翔平先輩が休みだからって、最低な人ですよね。頭悪い 」

「!?いや、あれはむ、虫刺されって」

「そんなわけないだろ。先輩騙すとかどれだけ悪女なんだ。早く正体現せ。」


虫刺されだと要くんが言ったのは、もしかしてわざと私を困らせようとしたから?

なら元々キスマークだってバレてたの!?


かぁああああと顔に熱が帯びる。
し、しかも石川くんがつけたのに!!


「…な、まだ演技する気なんですか?」

「い、いや、そんなつもりは」

「…やっぱり恐ろしい女ですね。俺は絶対騙されない。翔平先輩の目も覚まさせてやる!!」
「あ、ま、まって」



とんでもない誤解が生まれてしまっていると弁解しようにも、要くんは全く私の話を聞いてくれなかった。


「ブスはブスらしく、自分のレベルにあった男の相手してろ!!連絡先聞いてきたとかいうのがいただろ!」


つーちゃんが言ったことをはっきり覚えているんだろうか。彼はそう叫び、こちらが凍りつくんじゃないかと思うほどの視線を向けてくる。



「あと、このこと翔平先輩にバラしたら、覚悟しとけよ。」



そしてそんな脅しを添えて、ふんっ!と勢いよく背中をみせ歩いて行った。


私はいまだに彼の本性を受け入れられておらず、放たれた暴言の数々に唖然として立ち尽くしている。



「朱里先輩」

これも

「明るくてとっても素敵ですもんね」

これも

「朱里先輩ってすごく優しいんですね。お話できて嬉しいです。」

これも


全部嘘だったってことなのか。
本当は私のことずっと疑ってたのかな。



「はぁぁ。」


大きく出たため息。
これは中々のダメージだ。
懐いてくれていると思っていた後輩、そして石川くんの素晴らしさを唯一語り合える相手が、私のことが本当は嫌いだったなんて。


嫌い…とは言われてないけど、いやでもあれは絶対嫌ってる。



しかし要くんの言うことはもっともだと思った。


私と石川くんは月とスッポン。
びっくりするほど差がある。


それなのにやっぱり、近づきすぎなんだろうか…



自分が可愛くないことは知っていたけれど、それでも石川くんに自信をもらっていた私は

自惚れていたかもしれないと反省した。



本当に師匠とどうこうなりたいという不純なことは思ってない。それをどうしたら要くんに伝えられるのだろうか。


この場で考えたって答えが見つかるわけがない。


もう一度ため息を漏らして、足取り重く歩いてこの場を去った。



……なんだか悪いことが続きそうな予感。

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