石川くんにお願い!
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次の日。
昨日感じた悪い予感は当たっていた。
「えー!あのブス!?」
「ありえないよねぇ。」
女の子達からの視線に、悪口。
どうやら昨日大ちゃんともめたのことを石川くんが庇ってくれたのが、女の子達からすれば気に食わなかった様子。
すっかり噂が広まって、こうして朝からいろんな人に見られている。
「一気に人気者みたい」
「…人気者というより、嫌われ者だよ…つーちゃん」
ため息を1つ吐いたつーちゃんは女の子たちににらみを効かすと、不機嫌そうにコーヒーを飲んでいた。
「大体、聞こえるように言うのが丸わかり。あーいうのはイタイのが多いから、何かしてこなきゃいいけど。」
彼女の言葉に私は静かに頷く。
大学で行われるミスコンに選ばれた人すら石川くんに、気にも留めてもらえなかったと聞いた。そうなると、私みたいなブスが彼に構ってもらっていることを不思議に思われても仕方ないことだと思う。
だけどそれは大きな勘違いなのに。
私はただの”弟子”なんだから。
要くんにもみんなにもとんだ誤解を生んでしまってるよね。
「今日はこの一限だけだったからそれが救いだよ。」
「ねぇもう帰ったら??」
「…そうしたいけど、ちょっと要くんと話がしたくて…」
引き延ばせば引き延ばすほど関係がこじれてしまいそうな気がしてならない。
だから彼の誤解を早く解いてしまいたかった。
この噂の広まりようなら広大くんの耳にも入ってしまっているだろうし……。こっちの弁解も重要。
「大丈夫なの?私予定入れてるから帰るよ。」
「大丈夫だよ…みんな石川くんに嫌われるのが困るのか、直接何かしてやろうとか、言ってやろうとかっていうオーラは感じられないの。」
「成る程。」
とりあえずカバンを持ち教室から出て、2人で自販機のところに来る。
ここでも視線を感じるなぁ…
「それじゃあ、朱里。私行くわ」
「うん。気を付けてね。」
バイバイと手を振って、ふぅと一息吐いた。
なんだか喉が渇いた…お水買おうかな…
喉の渇きはいつもと違う緊張感の中にいるせいだと思う。カバンから財布を取り出して、迷いなくお水を購入。
そして背中を見られないように壁際によって、ペットボトルの蓋を開けた。
それを飲もうとした刹那
大ちゃんが珍しく1人で飲み物を買いに来たではないか。
……嘘…このタイミング…。
どうしよう…顔合わせ辛いのに。
とりあえず気配を消してはみたけれど、すぐにバレてバッチリと視線が混じり合った。
気まずくてとりあえず顔を背けて、そそくさとその場を去ろうとしたのに
「朱里」
何故かボソッと呼ばれる名前。
「…や、やっほー!一限お疲れ様ー!ま、またねー」
なんて声をかけたらいいかわからないけど、名前を呼ばれて無視するなんてことは出来なくて、つい笑顔を作ってしまう。
というか大ちゃんもよく呼び止められるな。
全く。
心の中で不満を漏らして、背中を向けると自販機からジュースをとった大ちゃんが私に向かってこう言った。
「…女たらしのとこにでも行くのか?」
ハンッと憎たらしく、意地悪く。
それが”石川くん”のことを指してることは考えればわかること。
「…どうして?」
「別に…お前、俺と付き合ってるときは石川に興味ないとか言ってたくせに、随分べったりだな。」
……いきなりなんなの大ちゃん。
この前まで私のことなんか無視してたくせに。
「…別に大ちゃんには関係ないでしょ。」
「遊ばれてんのがわかんねぇの?お前良くバイト代で奢ってくれたし、金狙われてんじゃねぇの」
「……なっ!」
彼が喋れば喋るほど私の心にモヤがかかる。
別れてからおかしい。こんな人じゃなかったのに。
「あ、それともあれ?お金渡して雇ってるとか?石川連れてきたら俺が悔しがって、仕返しになるとでも思った??」
私の胸はどんどん苦しくなっていった。
付き合ったときは優しくて素敵な彼氏だったのに。ここまで豹変しちゃうものなの?
もう未練すらないけど、一気に気持ちが冷めていく。
「大ちゃんに仕返しするなら、石川くんに頼ったりしないよ。確かに彼は色んな人と関係を持ってるけど、騙してお金を取るような悪どいホストみたいなことしないし、おまけに今の大ちゃんみたいに悪口言う人じゃないもん。」
私の台詞の中に、大ちゃんを腹立たせるスイッチがあったみたいだ。彼はガッと瞳孔を開くと
「あんな奴、ろくな奴じゃないだろ!!!」
と怒鳴った。
これには周りもヒソヒソと話を始めて、私たちの様子をうかがっている。
「俺の友達もあいつに彼女寝盗られてるんだぞ。お前は馬鹿だから騙されてるんだよっ!!」
「………っ」
……大ちゃんと付き合ってる頃、喧嘩をすれば必ず私が折れたのを思い出す。
だけどさすがの私もこれには我慢できなかった。
「…石川くんを悪く言わないでっ!!!」