石川くんにお願い!


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昨日は特にあのまま石川くんと連絡を取るということもなく、静かに1日を終えてしまった。


しかも今日もまだ、彼に会えていない。


会わないほうがいいかな……今日もう1日我慢するべきかも。だけど…


そんな葛藤をして数分


「朱里先輩」


可愛い声に呼び止められて、振り向くと要くんがいた。



「あ、か、要くん!!!」


まさか向こうから声をかけてくれるだなんて思っていなかったので、思わず笑顔で近づくと


「それ以上近寄んな。」


ピタッと怖い方に止められる。



……呼び止めてくれたのに、怖い……


「…朱里先輩。睨みましたが僕はいま機嫌が良いんです。」

「え、そ、そうなの。何か良いことあった?」

「…だって翔平先輩が復活したみたいじゃないですか」



輝かしい天使スマイル。
この前、かなり睨まれたことでその顔が刻みついていたけれど、こうしてみると要くんはやっぱり可愛い。


ずっとこうなら良いのにというのは、図々しい願いだろうか。



「…いや思ってたんですよね。翔平先輩みたいな人が、お前みたいな低レベルの女の相手をするのはおかしいって。」

「……要くん…裏が出てるよ。」

「…いま誰もいないからこれでいいんです。」


いや私は良くない。
と一応ツッコんでおいた。心の中でだけど。


だけど今日の彼は、本人も言ったようにニコニコ上機嫌だ。



「朱里先輩が可哀想な勘違いしちゃうから、その前に翔平先輩が元に戻って俺としては安心かな。」

「…安心も何も……要くんはすごく誤解してるよ。」

「……昨日翔平先輩が誘った女の人結構綺麗な人だった…まぁ頭悪そうで軽そうな女だけど、お前よりはマシかな。」


相変わらず可愛い顔でひどいことを言ってくれる。そして私の話は聞いてくれない。


だけど、そうか…やっぱり石川くんが相手したのは綺麗な人なんだ。



「これではっきりしましたね。朱里先輩だけが特別じゃないって。」



要くんは再び笑った。そりゃもうざまあみろと言わんばかりに。


「……」


特別…じゃないのはわかってたはずなのに。
やっぱり少し調子に乗ってたのかな。
なんだか心が寂しい気持ちになった。

師匠が女の子といるのはいいことだけど、弟子としては特別でいたい。


女の子としては無理だろうけど。
でも同じ弟子の要くんにそれを言うのは、嫌味っぽいし。



モヤモヤと色んなことを考えていたその時。


女の子たちが走っていく姿が見えた。


しかもそこそこおしゃれな格好をしている子。靴はピンヒールなのに走ってる。


講義の時間に遅れそうなのかな?
と思ったけど、そんな時間でもない。


何事なんだろう……


他にも女の子がヒソヒソ話しては、同じようにその方向へ行く。



「ねぇ要くん」

「…なんですか?」

「…何かあったのかな?みんな同じ方向に走っていくよ」


私のその言葉にチラッとそちらを見た彼は、


「あ、もしかしたら翔平先輩が今日の相手選んでるのかもしれませんね」


と思いついたように言った。



…ああ…それなら女の子たちが走る気持ちもわかる。ならやっぱり今日は、会わないほうがいいよね。そう決意した。


そんなとき、ブルルルルと震える私のスマホ


……?


誰だろうと手に取ると、つーちゃんの名前が表示されていたので迷うことなく電話に出た。



「はい。もしもし」

「あ、朱里。大変。石川くんもめてるらしいよ。」


電話越しの彼女の声に思わず固まる。



もめてる?石川くんが?


「え、石川くんがもめてるって…お、女の子と何かあったのかな?」

「…それがどうやら相手は、男みたい。女の子たちが騒いでる。帰ろうとしてたら、女子が大きな声で騒いでるから伝えとこうと思って。自販機あるところ」



嫌な予感がして、ざわつく心。


私の様子とさっきの”もめている”というワードのせいか要くんが眉をしかめていた。



「…わ、私行ってみる」

「1人で大丈夫?私も向かおうか?」

「ううん。つーちゃん用事あるでしょ。また報告するよ。ありがとう」


お礼を言って電話を切ると


「翔平先輩がどうかしたんですか?」


とぶっきらぼうに要くんが聞いてくる。



「……よくわからないけど、誰か男の人ともめてるみたい。すごく嫌な予感がするから、私いく!!」


……石川くんは温厚な人だ。
誰かと喧嘩するところを見たことがない。
だから…すごく心配だ


思わずバッと走り出すと、彼も


「あ、まて!」


なんて言いながらついてきた。



……この悪い予感は
どうか外れていますように。












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