石川くんにお願い!
いまだに睨みを効かす要くんは、ふわふわとしたオーラを一切感じさせない。
「…翔平先輩は俺の憧れなのに…」
そして下唇を噛み、身体を震わせる。
「…お前が…現れてから…何かが狂った……」
「……それは…」
「女のために男に殴られたり、あんなややこしいことする人じゃなかったんだっ……。」
要くんのいうことは最もだ。
今回のことは全て私が蒔いた種。
私のせいで石川くんは傷付いて、私のせいで苦しんだ。
反論の余地もない。
「…ごめんなさい…」
「俺に謝ってなんになるんだよ。悪いと思ってるなら翔平先輩の前から消えろ!!!」
謝ってしまったことで、怒りの感情を高ぶらせてしまったみたいだ……だけど言ってることはその通り。要くんに謝ってなんになるんだろうか。
「……お前がいると、翔平先輩の価値が下がる!!!いままで完璧だったのに!!!お前のせいでっ!!!」
「……っ…」
「 あの人はただ、お前みたいな女が珍しいだけなんだよ!!自惚れんなっ!!お前に似合う男なんでその辺にいるんだから現実見ろっ!!!」
ハァハァと彼の肩が揺れた。
そして最後には蚊の鳴くような声で
「これ以上…俺から憧れの翔平先輩を取るな…」
と切なげな顔をする。
女の私でも師匠として憧れるんだもん。
同じ男の要くんならきっとその気持ちは何倍もあるはず。だから私の存在が疎ましい気持ちもよくわかった。
「……そうだね。」
「…は?」
「要くんの言う通りだよ。私が近付いたせいで、確かに石川くんに迷惑ばかりかけてる。」
何かあれば慰めてくれて、一緒に頑張ろうと言ってくれた石川くん。私の都合で沢山振り回した。そしてそれに甘えた結果がこれ。
「実は…少しだけ自惚れそうになってたの。目を覚まさせてくれてありがとう。要くん。」
ニコッと笑うと、呆然とした様子で彼は固まってしまう。
「私こんなだし、将来石川くんの隣にいる人はきっとすごい美人だと思うの。釣り合うわけないからさ、心配しなくて大丈夫だよ。」
あははと笑っててなんだか少し切ない気持ちになった。
馬鹿だな私は。
少しでも自惚れそうになった自分が恥ずかしい。
「…少し距離を置くようにするね。あ、あと、広大くんのことも前向きに考えてみる!!」
「…お前…翔平先輩のこと好きなんじゃないの?」
「そりゃ人として好きだけど、私が石川くんの価値を下げてるなら近くにいない方がいいに決まってる。」
要くんは一瞬…うっと言葉を詰まらせたけど、すぐに眉を寄せて私を睨みつけなおした。
「いつまでそうやっていい子ぶるんだよっ!!いい加減本性見せろ!!」
「本性も何も……私物心ついた時からずっとこんな感じだよ」
「嘘つけっ!!」
「嘘じゃないよっ!!!」
あきらかに疑いの目を向けている彼に、どう説明したらいいのか最早わからない。
「女なんてみんな…嘘つきで傲慢な気持ち悪い生き物だっ!!!」
そして私がなにも言わないのをいいことに、苦痛の表情でこんなことを叫んだ。
「…要くん??」
「お前も絶対そうだっっ……」
どうしてこんなに辛そうなんだろう…
彼の心の中が全く見えなくて、混乱する。
「…女はみんな簡単に人の心の中に入ってくるくせに、簡単に裏切るんだ…っ」
今にも泣き出してしまいそうなくらい感情的になってる要くんは、我に返ったのかハッとして固まった。
「…要くん…大丈夫…?」
いきなり叫んだせいなのか、どこか顔色もよくないように見える。ゆっくり手を伸ばしたらバシッと振り払われた。
「………もういい。言いたいことは言った。」
「でも……なんだか」
「うるさいっ!!翔平先輩の前からも俺の前からも消えろ!!ブスっ!!!」
まるで見えない壁を作るように、言葉で私を遮断した要くんは逃げるようにその場から走って行く。
石川くんのことも要くんのこともどうしていいのかわからなくて、私はその場で動けなくなった。
壊れてしまいそうなくらい、苦痛の顔で叫んでたな…。もしかしたら要くんにも辛い何かがあったのかもしれない。
それが何かは今は予想もつかないけど。