石川くんにお願い!


色々考えながらトボトボと歩く私を見て、女の子達はヒソヒソと噂話をしている。



しかし今は、自分のことよりも
…要くんだよね。大丈夫かな……


辛そうな彼の顔を思い出して、また1つため息が空気に溶けた。


ポンポン


「!?」

「あ、ご、ごめん。そんなに驚かすつもりはなかったのに。」


いきなり叩かれて跳ねる肩。犯人は広大くんだ。


「わ、私こそ…考え事しててごめんね」

「ううん。姿が見えたからさ。良かったらそこのベンチに座らない?朱里ちゃんのこと探してたんだよね」


私を?と首をかしげると、広大くんは頷いた。
2人ですぐそばのベンチに腰を下ろし、一息つくと

「はい。どうぞ」

私の前にジュースが手渡される。


「わざわざ買ってきてくれたの?」

「…まぁね。会えて良かった」

「ありがとう…」


広大くんって本当にいい人だと思う。
昨日だって…結局…


「あ、こ、広大くん!!昨日はごめんね!」

昨日のことを思い出してすぐに謝罪。


「朱里ちゃんは関係ないでしょ。どうして謝るの?」

だけどクスクス笑われてしまった。


元々は、華奈と私と大ちゃんの問題だった。
それなのに石川くんを巻き込み、広大くんも巻き込み、要くんも巻き込んでる。


こんなに大きな事件になるなんて考えてもなかったのに。


「…大ちゃん…大丈夫だった?」

「…大丈夫ではないかな。プライド相当傷ついたみたいだしね。」

「あー…やっぱりか。」


一年も一緒にいて知っている元彼のプライドの高さ。あれさえなければもっと大人だったんじゃないかとも思う。


そんなことを考えていると今度は広大くんが口を開いた。



「…石川は?大丈夫だったの?」

「…うん…まぁ…」

「そかそか。昨日の喧嘩でわかったけど、石川って相当朱里ちゃんのこと好きだよね。」


広大くんはジュースを片手にニコリと笑う。私はというと複雑な心境にいた。

「……いや…好きっていう感情なのかわかんないよ」

「…あれで?どうみても好きだけどね。」

「…でも雲の上の存在だもん。私なんかありえないでしょ」


もう二度と自惚れたりしない。

ポジティブに取らないように心がけているのに、広大くんはどうやら確信を持ってるみたい


「…あの石川が、片っ端から女の子の誘い断ってたよ。」


そしてその言葉。


「……もう誰を抱いても…君のことばかり考えるんだろうね…」


ついつい石川くんのセリフを思い出してしまったじゃないか。


違う。あれはきっと深い意味じゃない。
そう自分に言い聞かせた。



「広大くんって石川くんに詳しいね」

「…まぁね。サークルの女子とか友達の情報」

「情報が回るなんて、石川くんって芸能人だよねー!!ほんとすごい!!」


どうにか考えないようにと苦笑いしながら広大くんに、合わせる。


「朱里ちゃん…石川にあそこまでされたら好きになっちゃうでしょ?」


そんな私に放たれた台詞。


好き……?
私が石川くんを??


確かに師匠としては大好きだ。
人としても好き。


だけどこの広大くんの含みは
”男”としてってことだよね。


「…あんなことされて惚れない子はいないでしょ。」

「…そ、そうかな…私遠い存在すぎてそんな風に考えたことなかったかも。」


そうだ。
私の気持ちは一体どうなんだろう。
一気にいろんなことを考えすぎて、混乱状態だ。


恋って…一体どんな感情だったかな……


自分でもおかしなところに行き着いてしまったと思う。だけど、失敗続きでわからなくなってきた。


いやでも仮にその感情を持ったとしても、その恋は叶うはずない。


要くんが自惚れるなって言ってたもんね…



思わず下を向いてしまったせいか


「朱里ちゃん?」


心配そうな広大くんの声。


あ、ごめんね。大丈夫。


そう言おうと思ったら後ろからフワリと抱き締められた。



「??」

「やっと見つけた。朱里」

囁かれる甘い声に思わずドキッとする。


「い、石川くん?」

「…下を向いてたけどどうかした?こいつに何かされた??」


そして彼は優しい声色から一変、広大くんを鋭く睨みつけた。



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