石川くんにお願い!

いきなり現れた石川くんに驚いたのは、私だけじゃない。広大くんも目を丸くしている。


「…安心していいよ。朱里ちゃんとは昨日のこと話してただけだし。」


話すタイミングを失っていた私の代わりに広大くんが答えてくれた。


どうしよう…
要くんに避ける宣言したのに…



「そう。君の友達に言っといてくれるかな。プライドを傷付けて悪かったねって。」

私がそんなことを考えてるなんて露知らず、全く悪びれた様子もない師匠は、横にソッと座る。


……こんなところを要くんに見られてはいけない。


少し離れようと広大くんの方に近付こうとしたら、グイッと肩を引き寄せられた。


「…どうかしたの?朱里」

「え、あ、ううん。えっとあ、暑いね」

その手からゆっくり逃れるべく、わざとらしくパタパタと手で顔を扇ぎながら再び離れようと試みる。

しかし、石川くんの手がそれを許してはくれなかった。



「朱里ちゃん。大のことは気にしなくていいからね。休んでても自業自得」

「…え、あ、ありがとう。ジュースまで貰っちゃって」

「いいよ。そんなの。」


私と広大くんの会話を聞いて、側にあったジュースを石川くんが手に取る。



「…朱里はミルクティーが好きなのに。あんまり好みを知らないんだね」


そして何故か攻撃的。

大ちゃんはともかくとして、彼が広大くんに当たる理由なんかない。

大ちゃんの友達だから??
でもそれは何か違うような…


「…あ、でも私このジュースも好きだよ。」


師匠が私の好みを知っていてくれてるのは、大変嬉しいけれど、先程の要くんの言葉が頭を回っていてそれを喜ぶ余裕を持ち合わせていなかった。


「…ふーん。なら次はミルクティー買うね」

「き、きにしないで。ありがとう広大くん」



…なんだこの見えない火花は…
どうしてこんなことになるの。

静かににらみ合う2人に私は身を縮める。


……側にいない方がいいって、さっきそう決めたよね…


いたたまれない気持ちもあったので、グッと立ち上がって

「…わ、私、つーちゃん待たせてるから行かなきゃ」

と2人に笑いかける。


「……あ、引き止めちゃってごめんね。朱里ちゃん」

「ううん。ありがとう広大くん」

「送っていくよ。」

「え、い、いい!平気だから!石川くんはゆっくりしてて!どうぞお構いなく!」


半ば逃げ出すように背中を向けた私は、その場から走った。



せっかく師匠に会えて嬉しかったのに。
ちゃんと伝えられなかった。
だけど伝えない方がいいよね。
彼の厄病神にはなりたくない。



名残惜しくもそんな気持ちで逃げたのだった。






*********



真っ直ぐつーちゃんの元に戻らず、しばらく心を落ち着けるため走りまくる。


そして


「どうしてそんなに息を切らしてるの?」


やっとゴールについた私は、ハァハァと肩を上下に揺らして息を整えた。つーちゃんが不思議そうな表情をしているけど、いま質問されても、答えられない。く、苦しい……



待ってと手で合図してとりあえず呼吸が落ち着くまで、待ってもらう。


「…石川くんと一緒にいた?あんた達もう付き合ってる?」

「はい!?」


頃合いを見計らって再びつーちゃんから質問。


しかしそれは的外れなもの。


「付き合ってないの?噂になってるけど、間違いなく付き合うフラグじゃん。」

「な、そんなことあり得るわけないよ!そ、それに私、しばらくは石川くんと距離を置くつもりだから。」

「はぁ?」


ブンブンと首と手のひらを振る私に、彼女は眉を思い切りしかめた。



「…私のせいで迷惑かけてるし、側にいたら石川くんの価値がさがっちゃうからさ…」


あぁ…なんだか自分で言ったら申し訳ない気持ちに襲われそう……

こんなことになってから気付くなんて、バカだ。私…


「…朱里って馬鹿なの?」

「へ?」

「私の中で石川くんの評価は上がってるけどね。」


ぶっきらぼうにそう言ったつーちゃんは、カバンからペットボトルを取り出してそれを飲んだ。



「…え、でも」

「…噂をすれば…ほら来た。」



来た……?

つーちゃんが指差す方向を見れば、石川くんが走ってきて私の前で止まる。



「…朱里…」

「い、石川くん。」

「……なんだか元気が無かったから。ほら」


差し出されたのはコンビニのビニール袋
中にはプリンとミルクティが入っていた。


「わざわざ…買ってきてくれたの?」

「なんだかいつもと違ったからね。元気出して」

「あ、ありがとう……」


……避けるなんて…要くんに言ったくせに
言ったこと後悔してる。


呼ばれているからと、そのまま手を振って去っていった彼を見つめていると、つーちゃんが大きくため息をついた。




「あの石川くんが走ってくるなんて考えられない。そしてなに?朱里を見つけちゃうあの探索力。女の誘いも断ってるし、朱里のこと好きすぎじゃん」

「……そう…かな」

「……ナチュラルにいちゃついてることに気付いてないなんて、2人とも大馬鹿」


勝手にやってろと厳しい言葉を放って、彼女はカバンを背負う。



「いちゃついてないよ!!!」



……自惚れてはいけないのに、要くんと約束したのに、このままじゃ勘違いして奈落の底に落ちる!!!


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