石川くんにお願い!
石川くんの修行
石川くんに弟子入りして1日目。講義前だというのに、何故だか一人でいる彼を発見した。
珍しい……でもラッキー!!
「師匠!おはようございます!!」
「っ!!……朱里……その呼び方やめようか……」
「え?どうして?ご主人様とお呼びした方が良かった?」
「魅力的ではあるけれどなにか間違ってることに気がついて。」
困ったように紙コップを口に運んだ石川くんは、息を呑むほど美しい。
この香りはコーヒーかな?
ただの大学。
しかも背景は自販機なのに、絵になるなんて眩しすぎるよ……
まるで絵画を見てるようで、少し魅入ってしまった
しかし…さっきから女の子達の視線が痛いくらい刺さっているから、それどころじゃない。
グサ、グサ、グサ
と矢に例えたら何本目かな。
だけどそれが気になる私と違いその視線の真ん中にいても、彼はスタイリッシュにコーヒーを口に運んでいた。
すごいな……
「ところで石川くん……一人なんて珍しいね」
「……ああ。さっきまで後輩が一緒だったからかな。」
後輩……?
女の子だよね……
周りの子達を近寄らせないなんて、よっぽど可愛い子に違いない。
年上年下問わず女の子が寄ってくる石川くんを独り占めできるなんて相当な美人だろうな……
「いや……年上年下問わずじゃない。老若男女問わず相手にしてるって言った方が、石川くんにはぴったりだよね!」
「……朱里。自分の名誉のために言っておくけど、ご老人と子供と男には手を出してないからね。」
「またまた、謙遜しちゃって」
「いやいや……謙遜じゃないよ。」
こんなにモテるのにそれを振りかざさないなんて、もう神じゃないか。石川くん凄すぎる。
感心して尊敬の眼差しを向けている私だけど
”石川くんと馴れ馴れしく話してんじゃねぇよ。ブス”
というテレパシーと睨みがあちこちから向けられていてそろそろ怖い。
でも……怖くてもこれだけは聞きたいな。
「今日は、何人と約束してるの??」
自分の気持ちに素直に質問すると、石川くんは少し考えながら指を順番に折り始めた。
1…2…さ、3!?
1日で!?
「3人かな?」
爽やかな笑顔をオマケしてくれた石川くん。
凄すぎる…流石だよ…!!
「流石私の見込んだ人!!尊敬っす!まじリスペクトっす!!よっ!日本一!」
パンッと手を叩いてよいしょをすれば、面白そうに笑った彼はムニッと私の頬を摘んだ。
そして……石川くんの唇が耳元に……!?
「あんまり面白いことして邪魔するなら……お仕置きしちゃうよ」
程よい吐息が耳にかかり、ゾクリと背中を何かが走る。
なんなの……こんなの漫画でしか見たことないよっっ!!今後何かの参考になるかも。
「朱里には……未知の世界かもね。」
「石川くんっ!」
「ん?ドキドキしすぎた?」
「メモを取ってよろしいですか!?」
「へ……」
彼の答えを聞く暇も無く、カバンからシャーペンとメモを取り出してこのシチュエーションを書き始める私。
学んだことはすぐメモする。これは鉄則
「私……こんなイケメンにお仕置きしちゃうよ。なんて言われたの初めて!!すごい!なんか興奮して感動してるよ!!正に石川くんは神。GOD石川。これをテーマにレポート書けちゃいそう」
「……落ち着いて」
「いい響き……。私ドキドキしちゃったよ。朝から希望を与えてくれてありがとうね!」
グッと親指を立てて笑うと、石川くんは何故かこめかみを手で押さえ俯いた。頭でも痛いのかな…
「初めて会った人種すぎて……どうしていいかわからないよ。朱里。」
「やだ!更に言葉で責めてくるの!!?嬉しい!とてもお上手」
「いや……違う……」
なんだか疲れた様子の彼は、ため息を吐いて笑うと
「……そろそろいくね。また後で」
とヒラリと手を上げて歩いて行った。
去り際も美しいなんて罪な人………
私はその神々しい背中を拝んだ。