借金のカタに取られました
ある日の社長室

「で、学校ではどんな感じだ?」

牧田を社長室に呼んで聞く。

「成績は中の中です。クラブ活動はしていません。クラスメイトの、大下健という男子生徒に好意を寄せているようです。畑中真子という幼なじみが唯一の友達のようです」

スラスラとメモを見ながら報告する。

「そうか。学校生活は別段問題なさそうだな」と安心していると牧田がもう一つの資料を渡す。

航平はそれを手に取り、眉をひそめる。

「この、クラスメイトの大下健の事ですが、あまり評判が良くありません。学校では人気があるらしいのですが、色んな女に手を出しているようです。実際、モテるようですが、告白してくる女は相手をせず、クラスでは目
立たない女を次から次へと手を出しているのです」

航平は不思議そうに牧田に問う。

「モテるなら、そんな必要はないだろう? どうしてだ?」

「それが、告白してくるような女は積極的なので、付き合ったとしても、別れたとしても、話が広がってしまいます。そうすると、次から次へと、相手を変えるわけにはいきません。しかし、クラスで目立たない女は、口が堅く、漏れることはありませんし、無理矢理別れを切り出したとしても、ほんの少しの間だけでも、こんな自分と付き合ってくれたと考えているので、恨まれることはありません。むしろ、感謝しているようです。それを逆手にとって、随分と手を出しているようです。バージンキラーですね」

航平は少し考えて、牧田に言った。

「修学旅行には誰か雇って監視してくれ。お前は顔が割れているからな。人生で初の旅行だぞ。何しでかすかわからない。取りあえず見張ってくれ」

「わかりました。すぐに準備します」と牧田は答えた。




翌日の放課後、健を呼び出し千那は頭を下げて謝った。

「ごめんなさい。私には婚約者がいます。高校を卒業したら結婚する約束をしています」

健は驚いた様子だったが

「正直に話してくれてありがとう。幸せになってね」と握手をしてくれた。

やっぱり私が好きになった人に間違いはなかった。

でも、心のどこかで航平の存在がなければ健と付き合えていたかも知れないと思うと、落胆する気持ちが大きかった。

思わず両親の顔が浮かんで

「許さない」と唇をかんだ。

真子は黙って付き合えばいいと言ってくれたが、平気で盗聴するような人だし、秘密には出来ないだろう。


予想通り今日の迎えは航平だった。

車の扉を開けるなり

「断ってきたか?」と低い声で聞かれる。

「はい」と答えると

「よし。お前の気持ちがフラフラするのには俺にも責任があるな。調教のペースをもう少しあげよう」ととんで
もないことを言い出した。

健と付き合えたかも知れないという夢のような出来事が、一瞬にして崩れ去り、それが他人によって壊されたと思うと、何を言われても、どうにでもなれと自暴自棄になった。

「あの男のことが好きなのか?」と余りにもストレートな質問で、少し間が開いてしまったが

「はい」と答える。

ここで、はっきり答えて、邪魔したのはあなただということを自覚して欲しかった。

「どこが好きなんだ?」

まさかの会話の展開に戸惑いながら

「えっと、皆に優しくて、穏やかで、スポーツが出来て……と、それと……」

航平はフッと笑うと

「だからガキなんだよ。人を好きになるのに理由なんてないんだよ」





千那がお風呂に入っている音を遠くに感じながら

あいつ、男を見る目がないなと実感する。

あの、クラスメイトの男も、少し観察していればわかるはずだ。

表だってチャラチャラしている男よりも、陰でこそこそしている男の方が、たちが悪い。

あいつは、地味だし、大人しいから、派手な男は声を掛けてこないが、よく見ると、素材は悪くない。

スタイルも良いし、顔立ちも決して悪くない。ただ、素材を活かせていないし、自信がないから、それが顔にも出てしまっている。

恋愛経験がないから、告白されると、すぐにのぼせ上がってしまうのもわかる。

少し、身体で繋げておく必要があるかもな。

俺に心がなくて、揺れるのは仕方ない。心で繋げないなら、身体で繋げておこう。




その言葉通りその夜、航平は千那キスをし、全身にくまなく触れた。

初めて触れられて怖さで身体が硬直したが、優しく撫でるような手つきに千那の身体の力は次第に抜けていった。

健の事を思うと、航平とこんなことをしている自分が健の思いに応えるなんて、そんな権利などないと自分自身を納得させることが出来た。
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