借金のカタに取られました
久しぶりに真子から連絡がある。
真子も新入社員として働いており、時々電話で千那に愚痴をこぼしていた。
千那が働いている事を言うととても驚き、話を聞きたがったので会うことにしたのだ。
航平には友達と会うと報告し、了承を得ていた。
高校生の頃は、習い事や家事でなかなか自由な時間を与えて貰えなかったが、社会人になると、報告さえすれば出掛けることを許してくれた。
これは、結婚という形で既に支配しているからかも知れない。
待ち合わせの場所に、真子は元気よく現れて何も変わらず安心した。
真子はさっそく会社の愚痴、先輩の悪口をおもしろおかしく話して、真子も笑いっぱなしだった。
そして、話は真子が聞きたがっていた内容に移る。
「千那、結婚したのにどうして働かされているの? 裕福なんだよね。家事は?」痛い質問が続く。
働かないとお金の価値がわからない、わからない奴に家計は任せられない、自分で働いて労働対価を実感しろ、そして毎日稼いでくる俺の有り難みも理解しろ、と言われたことをそのまま伝える。
「正論だわ」と真子は真顔で答える。
「でも働いたお金は千那のお小遣いなんでしょ?」とまたまた鋭い質問が飛ぶ。
「違うの。私は航平からお小遣いを貰っているの。あとは航平が管理している」
「えーっ」と予想通りの反応が返ってくる。
しかし、当初は千那も疑問には思ったが、衣類やその他の必要な物は全て航平が買い与えてくれるし、食費や雑費はカズさんが管理しており自分で財布を出すことはなく、給料を貰っても使い道がないのだ。
「それよりさ、旦那がいくら稼いでいるか知らないの?」
「うん」というと呆れたように
「飼い慣らされているじゃない」と言われて落ち込む。
真子との言うとおり、航平の敷いたレールの上を歩き、言うとおりに生活している。
飼われていると言われれば、その通りで、元々、借金のカタに取られたのだから、航平に飼われるという表現は正しいし、対等な関係ではないのは重々承知しているが、第三者からハッキリ言われると、辛いものがある。
高校生の頃から、パソコンを習わせて、英会話も習わせた。
どんな可能性があるか試してみたが、思っていたよりも成果を上げた。
箕島コーポレーションで働かせるなら、最低限でも、パソコンと英会話は習得させたかった。
余りにも他の社員の能力と差が有れば、コネ入社ということが、ばれてしまうだろう。そうなると、本人も社内では働きにくくなるし、劣等感を感じてしまう。
心配してはいたが、それは取り越し苦労だったようだ。
一旦、総務部で様子を見て、その後は、千那自身が努力し、やりたいことを見つけて、軌道修正していけば良い。
仕事をさせても、家事も一生懸命こなしているし、手を抜いている様子はない。
ただ、千那の意志は感じられない。
やらされていると感じているのか、諦めているのか。
そう考えていると、千那が帰ってきた。
真子と会った日の夜、リビングで色々考える。
航平の収入の事、飼い慣らされているという言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「千那、何か不満でもあるのか?」
全く航平には常に見透かされていて嘘がつけない。
不満はなく、それどころか裕福な生活をさせてもらって、習い事もさせてもらい、仕事を与えて貰い、その上給料ももらっている。
では、何が千那の中で釈然としないのかがわからない。
きっと物質的な物ではないだろうと答えを探していると
「何だ、不満でもあるのか? 欲しい物でもあるのか? それなら言え。黙っていちゃわからない。ははーん、それとも夜の生活のことか?」
千那は真っ赤になって黙る。
追い打ちを掛けるように
「千那、やりたいときは言えよ。俺は最初に言ったように求められる方が好きだからな。女にも欲求があるのはわかっているから、言ってくれれば相手するしさ」
千那は夜の生活には満足していた。
本音を言うと、航平のペースよりももっと求めて欲しいとさえ思っていた。あれだけ純情だった自分が信じられない。
自分で求めるなんてとても出来ない。今はこんな話をしているのではない。
思い切って千那は聞いてみた。
「航平、どうして私と結婚したの?」
意外な質問に航平は少し戸惑ったようだったが、すぐにいつもの航平に戻り
「借金のカタに貰ったからだ。それ以上でも以下でもない」
やっぱりね。
私のこと好きでも何でもないんだ。最初は借金のカタに取られたかも知れないけど、嫌いな人とは結婚まで出来ないと思っていたがこの人は出来るのだ。
本当に結婚したんだから、少しでも愛情が湧いたのだと思っていたけど、私が間違っていた。
きっと釈然としない答えはここにあるのだ。
「千那、俺はお前と結婚したんだ。それじゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど、航平が私の事、好きなのかわからない」
思わず本音が飛び出す。
「お前だって俺には抱かれたくないって言ったんだ。大体俺に愛情なんてなかっただろ。お互い様だろ。俺に聞
くって事は俺のことが好きなのか?」
はっきり聞かれて、自分の心に嘘が無いことがわかる。
私は航平の事が好きなのだ。でもそんなこと言えない。
「ほらみろ、相手にだけ求めるのはやめろ」
と捨て台詞を残してリビングを後にした。
どうして好きだと言わなかったのだろう。
あそこで言えば航平も応えてくれたのか、言ったとしても航平が自分の事を好きだとは思えないと考えると涙が出た。
会社で仕事をしていることで気が紛れた。一日中家に居て航平の事を考えていては、参っていただろう。
お小遣い制だが給料明細は毎月貰っており、手取りで二十万円弱だった。
そのお陰でお金の有り難みもわかったし、今の生活レベルを保つのにはいかに大変かも実感していた。
今住んでいる高級マンションの家賃を、ネットで調べて仰天したし、航平の高級車の値段にも驚いた。
それにカズさんの家政婦代や、私の高校時代から習っている数々の習い事等、簡単に払える金額ではないことを実感して感謝している。
入社して数ヶ月経った頃には、もっと会社の役に立ちたいと思い、率先して朝早く来て掃除をしたり、足りない備品は切れる前に点検し、他の人が、使用中に備品室へ取りに行く手間を省くように心がけた。
近頃は、航平の社長としての働きぶりが垣間見る事が出来て嬉しく感じていた。
月に一度の全体朝礼での航平は颯爽として、自信に満ちあふれ、格好良く惚れ惚れするし、朝礼が終わった後女性
社員達が
「社長格好良い」と口にするのを聞くと嬉しかった。
真子も新入社員として働いており、時々電話で千那に愚痴をこぼしていた。
千那が働いている事を言うととても驚き、話を聞きたがったので会うことにしたのだ。
航平には友達と会うと報告し、了承を得ていた。
高校生の頃は、習い事や家事でなかなか自由な時間を与えて貰えなかったが、社会人になると、報告さえすれば出掛けることを許してくれた。
これは、結婚という形で既に支配しているからかも知れない。
待ち合わせの場所に、真子は元気よく現れて何も変わらず安心した。
真子はさっそく会社の愚痴、先輩の悪口をおもしろおかしく話して、真子も笑いっぱなしだった。
そして、話は真子が聞きたがっていた内容に移る。
「千那、結婚したのにどうして働かされているの? 裕福なんだよね。家事は?」痛い質問が続く。
働かないとお金の価値がわからない、わからない奴に家計は任せられない、自分で働いて労働対価を実感しろ、そして毎日稼いでくる俺の有り難みも理解しろ、と言われたことをそのまま伝える。
「正論だわ」と真子は真顔で答える。
「でも働いたお金は千那のお小遣いなんでしょ?」とまたまた鋭い質問が飛ぶ。
「違うの。私は航平からお小遣いを貰っているの。あとは航平が管理している」
「えーっ」と予想通りの反応が返ってくる。
しかし、当初は千那も疑問には思ったが、衣類やその他の必要な物は全て航平が買い与えてくれるし、食費や雑費はカズさんが管理しており自分で財布を出すことはなく、給料を貰っても使い道がないのだ。
「それよりさ、旦那がいくら稼いでいるか知らないの?」
「うん」というと呆れたように
「飼い慣らされているじゃない」と言われて落ち込む。
真子との言うとおり、航平の敷いたレールの上を歩き、言うとおりに生活している。
飼われていると言われれば、その通りで、元々、借金のカタに取られたのだから、航平に飼われるという表現は正しいし、対等な関係ではないのは重々承知しているが、第三者からハッキリ言われると、辛いものがある。
高校生の頃から、パソコンを習わせて、英会話も習わせた。
どんな可能性があるか試してみたが、思っていたよりも成果を上げた。
箕島コーポレーションで働かせるなら、最低限でも、パソコンと英会話は習得させたかった。
余りにも他の社員の能力と差が有れば、コネ入社ということが、ばれてしまうだろう。そうなると、本人も社内では働きにくくなるし、劣等感を感じてしまう。
心配してはいたが、それは取り越し苦労だったようだ。
一旦、総務部で様子を見て、その後は、千那自身が努力し、やりたいことを見つけて、軌道修正していけば良い。
仕事をさせても、家事も一生懸命こなしているし、手を抜いている様子はない。
ただ、千那の意志は感じられない。
やらされていると感じているのか、諦めているのか。
そう考えていると、千那が帰ってきた。
真子と会った日の夜、リビングで色々考える。
航平の収入の事、飼い慣らされているという言葉が頭の中をぐるぐると回る。
「千那、何か不満でもあるのか?」
全く航平には常に見透かされていて嘘がつけない。
不満はなく、それどころか裕福な生活をさせてもらって、習い事もさせてもらい、仕事を与えて貰い、その上給料ももらっている。
では、何が千那の中で釈然としないのかがわからない。
きっと物質的な物ではないだろうと答えを探していると
「何だ、不満でもあるのか? 欲しい物でもあるのか? それなら言え。黙っていちゃわからない。ははーん、それとも夜の生活のことか?」
千那は真っ赤になって黙る。
追い打ちを掛けるように
「千那、やりたいときは言えよ。俺は最初に言ったように求められる方が好きだからな。女にも欲求があるのはわかっているから、言ってくれれば相手するしさ」
千那は夜の生活には満足していた。
本音を言うと、航平のペースよりももっと求めて欲しいとさえ思っていた。あれだけ純情だった自分が信じられない。
自分で求めるなんてとても出来ない。今はこんな話をしているのではない。
思い切って千那は聞いてみた。
「航平、どうして私と結婚したの?」
意外な質問に航平は少し戸惑ったようだったが、すぐにいつもの航平に戻り
「借金のカタに貰ったからだ。それ以上でも以下でもない」
やっぱりね。
私のこと好きでも何でもないんだ。最初は借金のカタに取られたかも知れないけど、嫌いな人とは結婚まで出来ないと思っていたがこの人は出来るのだ。
本当に結婚したんだから、少しでも愛情が湧いたのだと思っていたけど、私が間違っていた。
きっと釈然としない答えはここにあるのだ。
「千那、俺はお前と結婚したんだ。それじゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど、航平が私の事、好きなのかわからない」
思わず本音が飛び出す。
「お前だって俺には抱かれたくないって言ったんだ。大体俺に愛情なんてなかっただろ。お互い様だろ。俺に聞
くって事は俺のことが好きなのか?」
はっきり聞かれて、自分の心に嘘が無いことがわかる。
私は航平の事が好きなのだ。でもそんなこと言えない。
「ほらみろ、相手にだけ求めるのはやめろ」
と捨て台詞を残してリビングを後にした。
どうして好きだと言わなかったのだろう。
あそこで言えば航平も応えてくれたのか、言ったとしても航平が自分の事を好きだとは思えないと考えると涙が出た。
会社で仕事をしていることで気が紛れた。一日中家に居て航平の事を考えていては、参っていただろう。
お小遣い制だが給料明細は毎月貰っており、手取りで二十万円弱だった。
そのお陰でお金の有り難みもわかったし、今の生活レベルを保つのにはいかに大変かも実感していた。
今住んでいる高級マンションの家賃を、ネットで調べて仰天したし、航平の高級車の値段にも驚いた。
それにカズさんの家政婦代や、私の高校時代から習っている数々の習い事等、簡単に払える金額ではないことを実感して感謝している。
入社して数ヶ月経った頃には、もっと会社の役に立ちたいと思い、率先して朝早く来て掃除をしたり、足りない備品は切れる前に点検し、他の人が、使用中に備品室へ取りに行く手間を省くように心がけた。
近頃は、航平の社長としての働きぶりが垣間見る事が出来て嬉しく感じていた。
月に一度の全体朝礼での航平は颯爽として、自信に満ちあふれ、格好良く惚れ惚れするし、朝礼が終わった後女性
社員達が
「社長格好良い」と口にするのを聞くと嬉しかった。