借金のカタに取られました
秋になり、恒例である社内旅行の案内が廊下に張り出された。社内旅行なんてOLになった実感が湧いてワクワクした。
内容を見ると行き先は、熱海の高級温泉旅館だった。豪華な食事や広い入浴施設の画像も印刷されており、まとも
に家族旅行も行ったことがない千那にとっては楽しみな行事だった。
紅葉が始まり、景観的に抜群のタイミングで社内旅行の日程はやってきた。
会社の前には豪華なバスが数台並んでいる。航平は一号車の先頭に乗り込み、千那は四号車に乗り込み出発した。
車窓からは、見事に色づいた山々の景色と秋晴れの空が続き、退屈することはなかった。
部屋割りでは小川先輩と同じで、気を遣うこともなく一緒に観光地巡りをしたり、露天風呂に入ったりした。
旅館に着くまでに、いくつかの名所を巡ったのだが、航平の姿を探すと常に何人かの女性社員が一緒で、楽しそうにしていた。
少し嫉妬心を感じながら、なるべく見ないように心がけた。
海の幸や山の幸がふんだんに使われた豪華な料理を頂き、舞台の上で行われている社員達の出し物を見て楽しい時間を過ごしていた。
そこに連絡が入る。航平からだ。
「今晩部屋に来い」と書かれてある。
何か話しがあるのだろうかと思い、小川先輩が寝たのを確認し、航平の部屋へ行く。
ノックをすると、小さく扉が開き、航平の手が伸びてきて手を引っ張られる。
航平の部屋は和室で、奥には庭園が広がっていて薄暗く照らされている。
畳の上に敷かれた布団に気づきドキリとする。
その気持ちを察するように、航平は千那をその上に押し倒し、それと同時に浴衣の紐に手を掛けスルスルとほどかれた。
千那は浴衣であること、いつもベッドなのに布団であること、この旅館には他の社員が居ることを思うと、いつもと違うシチュエーションに興奮を覚えた。
身体はすぐに準備が出来ており、航平はすんなりと入ってきた。
「星田」わざと千那の旧姓で呼ぶ。
「こうへ……」と言おうとすると
「ここは会社だ。社長と呼べ」
「社長」
興奮は絶頂迎える。
「こういうのもいいだろ?」といつものように千那の心の中は読まれている。
激しく抱き合った後、航平は旅の疲れからか寝息を立てて寝てしまった。
いつも強引だが、決断力のない千那にとっては、引っ張ってくれる存在に強く惹かれてしまい、はっきりと意志を伝える事が苦手な為に、何も言わなくても心の中を察してくれる方が楽でもあった。
しばらく綺麗な寝顔を見てから、千那は誰にも見られないようにそっと部屋を後にした。
社内旅行は、社員達からアンケートを取り、最終決定した。
なるべく社内では、社員が働きやすいように心がけている。
自分は本来、我が儘だし、勝手な性格というのは自覚しているので、それらを、そのまま会社に反映させてしまう
と、総スカンを食らうのはわかっている。
その為、秘書の牧田に必ず相談するようにしている。
牧田は、イギリスで大学が同じだった。
彼の両親は仕事の関係で、イギリスに住んでおり、小学校からパリで生活をしていた。
高校は頭が良く飛び級し、大学に入学したときには、航平よりも二歳年下だった。
すぐに意気投合し、休みの日は観光に行ったり、とにかく一緒に行動した。
牧田は頭の回転が速く、航平が言うことを瞬時に理解し、話をしていて、もどかしさが全くなかった。
日本の学校では、言葉足らずで、よく誤解を受けたり、何度も説明したりしなくてはならず、面倒に感じていて、本当に仲の良い友達は出来なかった。
牧田は生まれ故郷の日本への憧れが強く、日本で起業するように説得したのは、牧田だった。
航平は、牧田が社長をすればよいと説得したが、社長は航平が適任だと言って、引かなかった。
しかし、牧田の選択は正しく、物怖じしない航平に、社長の職は合っていた。
前に出るのが苦手な牧田は、いつも航平を陰でサポートし、広い視野で物事を見て、時に感情的になる航平をたしなめた。
従業員の規則も、快適に働いて貰えれば、必ず業績に繋がると断言し、次々と推し進めていった。
そのお陰で、学生から人気の企業として注目を浴び、質の良い学生が集まるようになった。
仕事ぶりも完璧で、全ての部署に目が行き届き、改善点を指摘してくれる。
牧田がいなければ、ここまで会社は大きくなっていない。
副社長という肩書きを何度も勧めたが、どうしても秘書が良いと聞かなかった。
「肩書きに興味はありません。その方が仕事上、都合がよいのです」と言うので、理由を聞くと
「この肩書きにしておけば、取引企業や、新しく契約する企業を調査するのに、都合がよいのです。二人で行動するときに、社長と副社長では、仕事がやりにくいのです。私が秘書といえば、身構えることもないですし、本音を漏らすこともあります。その為、会社にいる間は、航平には敬語で話します。これは戦略です」と言うので
「敬語はやめてくれないか」と言ったが、未だに聞いてくれない。
牧田は社員旅行中、嬉しそうに写真を取りまくっていた。
長年、日本に住んでいなかったので、老舗旅館や温泉街の建物が新鮮で、嬉しそうだった。
ちらりと千那の姿を見かけて、ドキリとする。
髪をアップにし、浴衣を着ている。
まさか、俺が、欲情?
今まで女に困ったことなく、自分から抱きたいと感じたことはない。もちろん、性欲はあるが、その時には必ず女
性の方から誘ってきたので、問題はなかった。
知らない間に、女っぽくなっている体型に、ドキドキしている自分がいる。
高校生の頃は、すっぴんで子供っぽかったが、社会人になり、カズさんにメイクを教えて貰ったりして、がらりと印象が変わった。
きっと、自分に自信も持てるようになり、きちんと顔を上げて生きているからなのだろう。
最近では、夜の生活も、一方的な受け身ではなく、時々ではあるが、最中に身体の位置を少し変えたりする姿が見て取れる。
ほんの小さな動きではあるが、航平にはわかっている。
思わず、千那にメールを送信した。
翌朝、ダイニングで朝食をとったが、他の社員達を見て昨日の事を思い出すと顔を赤らめた。
社内旅行で私は一体何をやって居るのだろうと思う反面、興奮を覚えた自分に驚く。
朝食をとった後、カズさんの為にフロントにあるおみやげ屋さんを覗いた。
カズさんは甘い物が好きで、よくケーキやお団子を作っては千那や航平にも振る舞ってくれた。
試食を食べたが、どれも美味しいので千那は迷った。きっとカズさんが自分で作った方が美味しいかもと思い、買うのに気が引ける。
迷った挙げ句、一つのスイーツを手に取った。
バスは会社の前に戻り、下車した社員達はそれぞれ駅の方へ向かう。千那も一人で歩いていると携帯がなる。
「丸和ビルの前に来い」と航平からのメールだった。
方向転換して丸和ビルに向かう。
このビルは会社の裏手にある商業ビルで、一階にカフェがあるので千那も時々利用していた。
ビルの前には航平の車が停まっていた。助手席に乗り込むと
「今日は特別に家まで送ってやる」と言うと車は走り出した。
口は悪いけど優しいところも有るんだなと思っていると
「お前、昨日エロかったな」と言われ顔が紅潮する。
「調教した甲斐があったよ」と更に続け、千那を困らせる。
マンションに着くと、カズさんが迎えてくれた。
「おかえりなさい。まあまあ、お揃いで」と茶化す。
「ただいま帰りました」と先程の車内での会話を思い出して下を向いた。
カズさんに、迷いながら選んだスイーツの箱を渡す。
凄く嬉しそうに
「皆で食べましょう。お茶を入れますね」と喜んでくれてホッとする。
航平もカズさんに、和風の包みを渡している。
カズさんは、嬉しそうに包みを開けている。
中を見ると、熱海の工芸品の漆器だった。
カズさんは食器が好きで、料理によって器を選び、料理との彩りの相性にも気を使っていた。それを見ると流石航平だなと感心してしまった。
相手が好きな物、喜ぶ物を的確にチョイスしており、社内での航平と重なる部分もあることに気づく。
社内で行われる催事や、社員に対しての規定も、働く者にとってよく考えられたものが多い。
航平の事を今までは 「見透かされている」と否定的に捉えていたが、洞察力があり、人の気持ちを誰よりもくみ
取ることが出来ると、肯定的に捉えるようになった。
自分が選んだスイーツがなんだか見窄らしく思えたが、皆で食べるとなかなかの味で内心ほっとした。
内容を見ると行き先は、熱海の高級温泉旅館だった。豪華な食事や広い入浴施設の画像も印刷されており、まとも
に家族旅行も行ったことがない千那にとっては楽しみな行事だった。
紅葉が始まり、景観的に抜群のタイミングで社内旅行の日程はやってきた。
会社の前には豪華なバスが数台並んでいる。航平は一号車の先頭に乗り込み、千那は四号車に乗り込み出発した。
車窓からは、見事に色づいた山々の景色と秋晴れの空が続き、退屈することはなかった。
部屋割りでは小川先輩と同じで、気を遣うこともなく一緒に観光地巡りをしたり、露天風呂に入ったりした。
旅館に着くまでに、いくつかの名所を巡ったのだが、航平の姿を探すと常に何人かの女性社員が一緒で、楽しそうにしていた。
少し嫉妬心を感じながら、なるべく見ないように心がけた。
海の幸や山の幸がふんだんに使われた豪華な料理を頂き、舞台の上で行われている社員達の出し物を見て楽しい時間を過ごしていた。
そこに連絡が入る。航平からだ。
「今晩部屋に来い」と書かれてある。
何か話しがあるのだろうかと思い、小川先輩が寝たのを確認し、航平の部屋へ行く。
ノックをすると、小さく扉が開き、航平の手が伸びてきて手を引っ張られる。
航平の部屋は和室で、奥には庭園が広がっていて薄暗く照らされている。
畳の上に敷かれた布団に気づきドキリとする。
その気持ちを察するように、航平は千那をその上に押し倒し、それと同時に浴衣の紐に手を掛けスルスルとほどかれた。
千那は浴衣であること、いつもベッドなのに布団であること、この旅館には他の社員が居ることを思うと、いつもと違うシチュエーションに興奮を覚えた。
身体はすぐに準備が出来ており、航平はすんなりと入ってきた。
「星田」わざと千那の旧姓で呼ぶ。
「こうへ……」と言おうとすると
「ここは会社だ。社長と呼べ」
「社長」
興奮は絶頂迎える。
「こういうのもいいだろ?」といつものように千那の心の中は読まれている。
激しく抱き合った後、航平は旅の疲れからか寝息を立てて寝てしまった。
いつも強引だが、決断力のない千那にとっては、引っ張ってくれる存在に強く惹かれてしまい、はっきりと意志を伝える事が苦手な為に、何も言わなくても心の中を察してくれる方が楽でもあった。
しばらく綺麗な寝顔を見てから、千那は誰にも見られないようにそっと部屋を後にした。
社内旅行は、社員達からアンケートを取り、最終決定した。
なるべく社内では、社員が働きやすいように心がけている。
自分は本来、我が儘だし、勝手な性格というのは自覚しているので、それらを、そのまま会社に反映させてしまう
と、総スカンを食らうのはわかっている。
その為、秘書の牧田に必ず相談するようにしている。
牧田は、イギリスで大学が同じだった。
彼の両親は仕事の関係で、イギリスに住んでおり、小学校からパリで生活をしていた。
高校は頭が良く飛び級し、大学に入学したときには、航平よりも二歳年下だった。
すぐに意気投合し、休みの日は観光に行ったり、とにかく一緒に行動した。
牧田は頭の回転が速く、航平が言うことを瞬時に理解し、話をしていて、もどかしさが全くなかった。
日本の学校では、言葉足らずで、よく誤解を受けたり、何度も説明したりしなくてはならず、面倒に感じていて、本当に仲の良い友達は出来なかった。
牧田は生まれ故郷の日本への憧れが強く、日本で起業するように説得したのは、牧田だった。
航平は、牧田が社長をすればよいと説得したが、社長は航平が適任だと言って、引かなかった。
しかし、牧田の選択は正しく、物怖じしない航平に、社長の職は合っていた。
前に出るのが苦手な牧田は、いつも航平を陰でサポートし、広い視野で物事を見て、時に感情的になる航平をたしなめた。
従業員の規則も、快適に働いて貰えれば、必ず業績に繋がると断言し、次々と推し進めていった。
そのお陰で、学生から人気の企業として注目を浴び、質の良い学生が集まるようになった。
仕事ぶりも完璧で、全ての部署に目が行き届き、改善点を指摘してくれる。
牧田がいなければ、ここまで会社は大きくなっていない。
副社長という肩書きを何度も勧めたが、どうしても秘書が良いと聞かなかった。
「肩書きに興味はありません。その方が仕事上、都合がよいのです」と言うので、理由を聞くと
「この肩書きにしておけば、取引企業や、新しく契約する企業を調査するのに、都合がよいのです。二人で行動するときに、社長と副社長では、仕事がやりにくいのです。私が秘書といえば、身構えることもないですし、本音を漏らすこともあります。その為、会社にいる間は、航平には敬語で話します。これは戦略です」と言うので
「敬語はやめてくれないか」と言ったが、未だに聞いてくれない。
牧田は社員旅行中、嬉しそうに写真を取りまくっていた。
長年、日本に住んでいなかったので、老舗旅館や温泉街の建物が新鮮で、嬉しそうだった。
ちらりと千那の姿を見かけて、ドキリとする。
髪をアップにし、浴衣を着ている。
まさか、俺が、欲情?
今まで女に困ったことなく、自分から抱きたいと感じたことはない。もちろん、性欲はあるが、その時には必ず女
性の方から誘ってきたので、問題はなかった。
知らない間に、女っぽくなっている体型に、ドキドキしている自分がいる。
高校生の頃は、すっぴんで子供っぽかったが、社会人になり、カズさんにメイクを教えて貰ったりして、がらりと印象が変わった。
きっと、自分に自信も持てるようになり、きちんと顔を上げて生きているからなのだろう。
最近では、夜の生活も、一方的な受け身ではなく、時々ではあるが、最中に身体の位置を少し変えたりする姿が見て取れる。
ほんの小さな動きではあるが、航平にはわかっている。
思わず、千那にメールを送信した。
翌朝、ダイニングで朝食をとったが、他の社員達を見て昨日の事を思い出すと顔を赤らめた。
社内旅行で私は一体何をやって居るのだろうと思う反面、興奮を覚えた自分に驚く。
朝食をとった後、カズさんの為にフロントにあるおみやげ屋さんを覗いた。
カズさんは甘い物が好きで、よくケーキやお団子を作っては千那や航平にも振る舞ってくれた。
試食を食べたが、どれも美味しいので千那は迷った。きっとカズさんが自分で作った方が美味しいかもと思い、買うのに気が引ける。
迷った挙げ句、一つのスイーツを手に取った。
バスは会社の前に戻り、下車した社員達はそれぞれ駅の方へ向かう。千那も一人で歩いていると携帯がなる。
「丸和ビルの前に来い」と航平からのメールだった。
方向転換して丸和ビルに向かう。
このビルは会社の裏手にある商業ビルで、一階にカフェがあるので千那も時々利用していた。
ビルの前には航平の車が停まっていた。助手席に乗り込むと
「今日は特別に家まで送ってやる」と言うと車は走り出した。
口は悪いけど優しいところも有るんだなと思っていると
「お前、昨日エロかったな」と言われ顔が紅潮する。
「調教した甲斐があったよ」と更に続け、千那を困らせる。
マンションに着くと、カズさんが迎えてくれた。
「おかえりなさい。まあまあ、お揃いで」と茶化す。
「ただいま帰りました」と先程の車内での会話を思い出して下を向いた。
カズさんに、迷いながら選んだスイーツの箱を渡す。
凄く嬉しそうに
「皆で食べましょう。お茶を入れますね」と喜んでくれてホッとする。
航平もカズさんに、和風の包みを渡している。
カズさんは、嬉しそうに包みを開けている。
中を見ると、熱海の工芸品の漆器だった。
カズさんは食器が好きで、料理によって器を選び、料理との彩りの相性にも気を使っていた。それを見ると流石航平だなと感心してしまった。
相手が好きな物、喜ぶ物を的確にチョイスしており、社内での航平と重なる部分もあることに気づく。
社内で行われる催事や、社員に対しての規定も、働く者にとってよく考えられたものが多い。
航平の事を今までは 「見透かされている」と否定的に捉えていたが、洞察力があり、人の気持ちを誰よりもくみ
取ることが出来ると、肯定的に捉えるようになった。
自分が選んだスイーツがなんだか見窄らしく思えたが、皆で食べるとなかなかの味で内心ほっとした。