借金のカタに取られました
成人式とカズさんの過去
箕島コーポレーションに入社して、二年が過ぎた。
千那は二十歳になろうとしていた。
その日、カズさんに
「航平さんに頼まれているので一緒に来てください」と言われ都内の呉服店に連れて行かれる。
「好きなのを選んでください」
「え? 着物?」
「成人式に着るお着物です」
戸惑っていると
「航平さんが、千那さんの好きな物を選んでくるようにと言われております。遠慮無くどうぞ」
航平からは、今まで誕生日やクリスマスのプレゼントなど貰ったことがなかった。
誕生日は、カズさんの手作りケーキと豪華な食事で千那はそれで充分だったし、ましてや普通の結婚とは違うので、これ以上もらうなんて烏滸がましいとさえ思っていた。
小さい頃から両親にもお祝いして貰ったことさえなかったので、豪華な食事だけで涙が出るほど感激していた。
それが着物だなんて信じられない。
カズさんは、千那に似合いそうな柄を次から次へと胸に当て、鏡で確認した。
最終的に二着選ぶと、実際に試着して選んだ方がいいと言われて、初めて着物に袖を通した。
ここでもカズさんは手早く着付けてくれて、いったいこの人の出来ないことは何なのだろうと不思議に思いながら、最終的に一着に決めた。
帯や小物、草履も揃えカズさんは満足そうに
「当日が楽しみだわ」と言った。
家に戻ると航平が戻っていたので、さっそくお礼を言う。
「今日はありがとうございました」
「成人式は大切だからな。一人前の大人として認められることだ。ちゃんと区切りはつけたほうがいい」
いつも、ぶっきらせぼうで口が悪いが、内面は真面目で、礼儀正しくて、他人に対して思いやりを持っていることは、一緒に生活し、会社で働いていると手に取るようにわかっている。
成人式の日は、カズさんに着付けして貰った上に、器用にセミロングの髪もアップスタイルにしてくれて、成人式に出席した。
出掛けるときに航平は
「式が終わったら連絡しろ。迎えに行くから」と無表情で言う。
少しは着物姿を見て、綺麗という言葉はないものかと、少し腹が立ったが、その言葉は飲み込んだ。
あのまま実家にいたら、とてもじゃないけど着物なんて準備してくれなかったし、その為成人式にも出席しなかっただろうと思ったからだ。
それより、休みの日に迎えに来るなんてどういう風の吹き回しだろうと疑問に思ったが、いつもの気まぐれかと思い気にしなかった。
式では同級生と久しぶりに顔を合わしたり、真子とおしゃべりしたり楽しい時間となった。
健を見かけて、高校生の頃より、大人びていて男らしくなった姿に胸が熱くなったが、声を掛けることは出来なかった。
式を終えて、皆は二次会にカラオケへと流れていったが、千那は航平の言いつけ通り連絡する。
十分程すると、航平の車が走ってくるのが見える。
車に乗り込むと、後部座席にはカズさんも乗っていた。
「今日はおめでとうございました。楽しかったですか?」と聞かれ
「はい。久しぶりに同級生にも会えて、こんな綺麗な着物も着せて貰って出席して良かったです」と答える。
航平は何も言わず、車は出発する。
カズさんは痺れを切らしたように
「これから航平さんは、千那さんの成人式のお祝いに旅行に連れて行ってくださいます」
「え? 着物だよ」と千那の言葉を聞いて、初めて航平は口を開く。
「近くだよ。洋服はあとで買ってやる。それにお前のお祝いはついでだ。カズさんにお前を成人まで育てて貰った感謝の旅行だ。美味しい食事と温泉だ」
「ついでなんて。千那さんのお祝いですよ」とカズさんは優しく庇ってくれる。
旅館に着くまでにショッピングモールに寄り、航平は二人に待っているように言うとそれ以上何も言わず車を降りてモールの中に消えていった。
ショッピングモールの案内板を見て、航平は目星を付けた店に入る。
店員に
「百六十センチ、四十二キロ、細身、そこそこ美人、清楚なワンピースを一着と、それに合う、二十三センチの靴、すぐに着替えるから、タグは取ってくれ」
店員さんは慌てて、ワンピースを何着かチョイスし、航平の前に差し出す。
すぐに一着チョイスして、カードを渡した。
今日はとうとう成人式か。千那を独り立ちさせてやらなくてはいけない。
俺が縛っていてはダメだ。
もう、自分の力で生きていけるし、誰かに指図されてはいけない。
ここで、一旦、突き放して更に成長させなければいけない。
俺の痕跡を消し去り、自由に生きていって欲しい。
役目は終わったはずだ。解放してやらなくては。
そう思うと、惜しい気持ちになったが、それはエゴだと自分に言い聞かせて、店を後にした。
千那は二十歳になろうとしていた。
その日、カズさんに
「航平さんに頼まれているので一緒に来てください」と言われ都内の呉服店に連れて行かれる。
「好きなのを選んでください」
「え? 着物?」
「成人式に着るお着物です」
戸惑っていると
「航平さんが、千那さんの好きな物を選んでくるようにと言われております。遠慮無くどうぞ」
航平からは、今まで誕生日やクリスマスのプレゼントなど貰ったことがなかった。
誕生日は、カズさんの手作りケーキと豪華な食事で千那はそれで充分だったし、ましてや普通の結婚とは違うので、これ以上もらうなんて烏滸がましいとさえ思っていた。
小さい頃から両親にもお祝いして貰ったことさえなかったので、豪華な食事だけで涙が出るほど感激していた。
それが着物だなんて信じられない。
カズさんは、千那に似合いそうな柄を次から次へと胸に当て、鏡で確認した。
最終的に二着選ぶと、実際に試着して選んだ方がいいと言われて、初めて着物に袖を通した。
ここでもカズさんは手早く着付けてくれて、いったいこの人の出来ないことは何なのだろうと不思議に思いながら、最終的に一着に決めた。
帯や小物、草履も揃えカズさんは満足そうに
「当日が楽しみだわ」と言った。
家に戻ると航平が戻っていたので、さっそくお礼を言う。
「今日はありがとうございました」
「成人式は大切だからな。一人前の大人として認められることだ。ちゃんと区切りはつけたほうがいい」
いつも、ぶっきらせぼうで口が悪いが、内面は真面目で、礼儀正しくて、他人に対して思いやりを持っていることは、一緒に生活し、会社で働いていると手に取るようにわかっている。
成人式の日は、カズさんに着付けして貰った上に、器用にセミロングの髪もアップスタイルにしてくれて、成人式に出席した。
出掛けるときに航平は
「式が終わったら連絡しろ。迎えに行くから」と無表情で言う。
少しは着物姿を見て、綺麗という言葉はないものかと、少し腹が立ったが、その言葉は飲み込んだ。
あのまま実家にいたら、とてもじゃないけど着物なんて準備してくれなかったし、その為成人式にも出席しなかっただろうと思ったからだ。
それより、休みの日に迎えに来るなんてどういう風の吹き回しだろうと疑問に思ったが、いつもの気まぐれかと思い気にしなかった。
式では同級生と久しぶりに顔を合わしたり、真子とおしゃべりしたり楽しい時間となった。
健を見かけて、高校生の頃より、大人びていて男らしくなった姿に胸が熱くなったが、声を掛けることは出来なかった。
式を終えて、皆は二次会にカラオケへと流れていったが、千那は航平の言いつけ通り連絡する。
十分程すると、航平の車が走ってくるのが見える。
車に乗り込むと、後部座席にはカズさんも乗っていた。
「今日はおめでとうございました。楽しかったですか?」と聞かれ
「はい。久しぶりに同級生にも会えて、こんな綺麗な着物も着せて貰って出席して良かったです」と答える。
航平は何も言わず、車は出発する。
カズさんは痺れを切らしたように
「これから航平さんは、千那さんの成人式のお祝いに旅行に連れて行ってくださいます」
「え? 着物だよ」と千那の言葉を聞いて、初めて航平は口を開く。
「近くだよ。洋服はあとで買ってやる。それにお前のお祝いはついでだ。カズさんにお前を成人まで育てて貰った感謝の旅行だ。美味しい食事と温泉だ」
「ついでなんて。千那さんのお祝いですよ」とカズさんは優しく庇ってくれる。
旅館に着くまでにショッピングモールに寄り、航平は二人に待っているように言うとそれ以上何も言わず車を降りてモールの中に消えていった。
ショッピングモールの案内板を見て、航平は目星を付けた店に入る。
店員に
「百六十センチ、四十二キロ、細身、そこそこ美人、清楚なワンピースを一着と、それに合う、二十三センチの靴、すぐに着替えるから、タグは取ってくれ」
店員さんは慌てて、ワンピースを何着かチョイスし、航平の前に差し出す。
すぐに一着チョイスして、カードを渡した。
今日はとうとう成人式か。千那を独り立ちさせてやらなくてはいけない。
俺が縛っていてはダメだ。
もう、自分の力で生きていけるし、誰かに指図されてはいけない。
ここで、一旦、突き放して更に成長させなければいけない。
俺の痕跡を消し去り、自由に生きていって欲しい。
役目は終わったはずだ。解放してやらなくては。
そう思うと、惜しい気持ちになったが、それはエゴだと自分に言い聞かせて、店を後にした。