借金のカタに取られました
航平は会社の方角に車を走らせながら考える。
やはり、送り迎えが必要だな。逃げるにしても、何処へ行くつもりだったんだ?
行く所なんて、ないだろう。
でも、あの様子だと、本気で逃げようとした感じではなかったな。
まったく、危なっかしい奴だ。
でも、この状況を飲み込むには、時間が必要だ。
あまり、考えさせる時間を作るのは危険だから、当初の考えていた習い事を増やしておこう。
しかし、あいつの私物、酷かったな。
汚ねぇ、冬服が二枚と、Tシャツが三枚、履き古したスニーカーが一足、下着も着古した物が数枚、あれが、世にいう女子高生の私物とは驚きだ。
価値があるとは思えないから、迷い無く処分出来たからいいけど、帰ったら驚くかも知れないな。
携帯も買い与えないとな。
あれじゃ、惨めだ。
溜息をついて、バックミラーに映る千那の姿を見て、街中へ向かった。
牧田は、終始無言で車を運転し、何処にも寄らずにマンションの前に停車し扉を開けた。
「ありがとうございます」と言うと、軽く会釈して再び車に乗り込み走り去ってしまった。
マンションの玄関扉の前で、そういえば家の鍵をもらっていない事に気づき部屋番号を押してインターホンを慣らす。
朝聞いたカズさんの声が響く
「はい。すぐに開けます」と言った同時に扉は開いた。
(この先、ここに住むのだろうか、あの男と結婚するのだろうか)と考えているうちに、エレベーターは目的地に
着いた。
部屋に入るとカズさんが笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」と返答したが慣れない家に戸惑う。
きっと 「お邪魔します」の方がしっくりくる。
今まで生きてきて 「ただいま」と言ったこともなく、その為 「おかえりなさい」という返答にも戸惑いを感じる。
お弁当箱を渡して、お礼を言うと、包みを受け取りながら嬉しそうに言った。
「久しぶりに作って楽しかったわ」
あんなお弁当を毎日食べていた人が居たのだと思うと、無性に羨ましくなった。
「千那さん、カバンを置いて着替えてきてください。航平さんに言われているので、料理をお教えいたします」
と言われて部屋に行き着替えようとすると、千那が持ってきた数少ない衣類が全てなくなっていた。
「あの、カズさん、私の荷物は?」と聞くと
「航平さんが全て処分致しました。新しい衣類はそのクローゼットに入っておりますので、そこから選んで着替
えてください」
クローゼットを開けるとズラリと衣服が掛かっている。ドレス風の物から部屋着、アクセサリーや帽子まで揃っていた。
まさかと思いタンスの引き出しを開けると、下着までご丁寧に揃えられていた。
服の趣味は清楚なお嬢さん風で、千那のカジュアルな服の趣味とは程遠いが、これが航平という男の趣味なのかと諦めてクローゼットを閉めた。
カジュアルが趣味と言えば聞こえはよいが、安い洋服を選ぶと、おのずとそうなるだけで、好き好んで着ているわけではない。
一応、玄関の下駄箱も見に行ったが、千那の履き古した靴は一足もなく、新品の靴がズラリと並んでいた。
捨てられても何の価値もない洋服だし、恥ずかしいことに五着程しか持っていなかった。それより、あの洋服を見られた事の方が恥ずかしい。下着のサイズもよれよれの物を見て確かめたのだと思うと赤面した。
「ふーっ」と溜息をついてカズさんの元へ行った。
「千那さん、お似合いですね」と部屋着を見て褒めてくれる。
(一体、カズさんは、何処まで知っているのだろう。あの男とはいつからの付き合いなのだろう。冗談を言い合うくらいだから最近の付き合いでないことはわかる)
ぼーっと考えていると
「まず、夕食を作ります。献立は鯖の味噌煮、切り干し大根、たことキュウリの酢の物、わかめと豆腐のおみそ汁です。作れる物はありますか?」
「すみません。出来ません。料理は調理実習でしかしたことありません」と正直に答える。
「わかりました。では一緒に作っていきましょう」と手取り足取りカズさんに教わった。
夕食が出来上がる頃、航平が帰ってきた。
「おかえりなさい」とすぐさまカズさんは笑顔で迎える。
「ただいま」と言った後、千那の目の前にやってきて、顔を近づけてじっと睨み付ける。
慌てて
「おかえりなさい」と言うと
「ただいま」と頭をポンポンと軽く叩いた。
まるで、よしよしと子犬を手名付けるような仕草だった。
そっか、飼われているのだからご主人様に挨拶しないといけないのか。
しかし、無言の圧力、辞めて欲しいのだけど。言葉で言えばいいのに性格悪いよと、とても本人には言えないことを考える。
食事をしている間、航平は楽しそうにカズさんと会話している。私には見せないであろう表情でこの男の二面性を感じる。
食後は、食器の片付けをカズさんに教えて貰いながら行う。食洗機というものも初めて使用したし、調理用具や調味料は何処に片付けるかと指導を受けながら覚えていく。
片付けを終えるとカズさんは
「では、また明日」と言って部屋を後にしたことで、カズさんは通いの家政婦さんなのだと気づく。
二人きりの空気に慣れず、ソファーの端に座る。
航平は向い側に座り、パソコンを難しい顔で叩いている。
(とうとう今晩は何かあるのだろうか。昨日のように寝たふりをしようか)と考えていると
「千那、今から俺のことは航平と呼べ」と突然言われる。
いきなり呼び捨ては気が引けるけど、ここは当たり障り無く返事をしておこうと考えて
「はい」と答えると、それを見透かしたように
「言ってみろ」と言われ焦る。
「航……平……」
じっと千那の目を見つめて視線を外さない。
正面からじっくりと顔を見ると、黒目がくっきりした瞳に通った鼻筋、きめの細かい肌がきらりと光っていてドキリとし思わず目を反らすと
「うぶだな」と鼻で笑われてムッとした。
やはり、送り迎えが必要だな。逃げるにしても、何処へ行くつもりだったんだ?
行く所なんて、ないだろう。
でも、あの様子だと、本気で逃げようとした感じではなかったな。
まったく、危なっかしい奴だ。
でも、この状況を飲み込むには、時間が必要だ。
あまり、考えさせる時間を作るのは危険だから、当初の考えていた習い事を増やしておこう。
しかし、あいつの私物、酷かったな。
汚ねぇ、冬服が二枚と、Tシャツが三枚、履き古したスニーカーが一足、下着も着古した物が数枚、あれが、世にいう女子高生の私物とは驚きだ。
価値があるとは思えないから、迷い無く処分出来たからいいけど、帰ったら驚くかも知れないな。
携帯も買い与えないとな。
あれじゃ、惨めだ。
溜息をついて、バックミラーに映る千那の姿を見て、街中へ向かった。
牧田は、終始無言で車を運転し、何処にも寄らずにマンションの前に停車し扉を開けた。
「ありがとうございます」と言うと、軽く会釈して再び車に乗り込み走り去ってしまった。
マンションの玄関扉の前で、そういえば家の鍵をもらっていない事に気づき部屋番号を押してインターホンを慣らす。
朝聞いたカズさんの声が響く
「はい。すぐに開けます」と言った同時に扉は開いた。
(この先、ここに住むのだろうか、あの男と結婚するのだろうか)と考えているうちに、エレベーターは目的地に
着いた。
部屋に入るとカズさんが笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」と返答したが慣れない家に戸惑う。
きっと 「お邪魔します」の方がしっくりくる。
今まで生きてきて 「ただいま」と言ったこともなく、その為 「おかえりなさい」という返答にも戸惑いを感じる。
お弁当箱を渡して、お礼を言うと、包みを受け取りながら嬉しそうに言った。
「久しぶりに作って楽しかったわ」
あんなお弁当を毎日食べていた人が居たのだと思うと、無性に羨ましくなった。
「千那さん、カバンを置いて着替えてきてください。航平さんに言われているので、料理をお教えいたします」
と言われて部屋に行き着替えようとすると、千那が持ってきた数少ない衣類が全てなくなっていた。
「あの、カズさん、私の荷物は?」と聞くと
「航平さんが全て処分致しました。新しい衣類はそのクローゼットに入っておりますので、そこから選んで着替
えてください」
クローゼットを開けるとズラリと衣服が掛かっている。ドレス風の物から部屋着、アクセサリーや帽子まで揃っていた。
まさかと思いタンスの引き出しを開けると、下着までご丁寧に揃えられていた。
服の趣味は清楚なお嬢さん風で、千那のカジュアルな服の趣味とは程遠いが、これが航平という男の趣味なのかと諦めてクローゼットを閉めた。
カジュアルが趣味と言えば聞こえはよいが、安い洋服を選ぶと、おのずとそうなるだけで、好き好んで着ているわけではない。
一応、玄関の下駄箱も見に行ったが、千那の履き古した靴は一足もなく、新品の靴がズラリと並んでいた。
捨てられても何の価値もない洋服だし、恥ずかしいことに五着程しか持っていなかった。それより、あの洋服を見られた事の方が恥ずかしい。下着のサイズもよれよれの物を見て確かめたのだと思うと赤面した。
「ふーっ」と溜息をついてカズさんの元へ行った。
「千那さん、お似合いですね」と部屋着を見て褒めてくれる。
(一体、カズさんは、何処まで知っているのだろう。あの男とはいつからの付き合いなのだろう。冗談を言い合うくらいだから最近の付き合いでないことはわかる)
ぼーっと考えていると
「まず、夕食を作ります。献立は鯖の味噌煮、切り干し大根、たことキュウリの酢の物、わかめと豆腐のおみそ汁です。作れる物はありますか?」
「すみません。出来ません。料理は調理実習でしかしたことありません」と正直に答える。
「わかりました。では一緒に作っていきましょう」と手取り足取りカズさんに教わった。
夕食が出来上がる頃、航平が帰ってきた。
「おかえりなさい」とすぐさまカズさんは笑顔で迎える。
「ただいま」と言った後、千那の目の前にやってきて、顔を近づけてじっと睨み付ける。
慌てて
「おかえりなさい」と言うと
「ただいま」と頭をポンポンと軽く叩いた。
まるで、よしよしと子犬を手名付けるような仕草だった。
そっか、飼われているのだからご主人様に挨拶しないといけないのか。
しかし、無言の圧力、辞めて欲しいのだけど。言葉で言えばいいのに性格悪いよと、とても本人には言えないことを考える。
食事をしている間、航平は楽しそうにカズさんと会話している。私には見せないであろう表情でこの男の二面性を感じる。
食後は、食器の片付けをカズさんに教えて貰いながら行う。食洗機というものも初めて使用したし、調理用具や調味料は何処に片付けるかと指導を受けながら覚えていく。
片付けを終えるとカズさんは
「では、また明日」と言って部屋を後にしたことで、カズさんは通いの家政婦さんなのだと気づく。
二人きりの空気に慣れず、ソファーの端に座る。
航平は向い側に座り、パソコンを難しい顔で叩いている。
(とうとう今晩は何かあるのだろうか。昨日のように寝たふりをしようか)と考えていると
「千那、今から俺のことは航平と呼べ」と突然言われる。
いきなり呼び捨ては気が引けるけど、ここは当たり障り無く返事をしておこうと考えて
「はい」と答えると、それを見透かしたように
「言ってみろ」と言われ焦る。
「航……平……」
じっと千那の目を見つめて視線を外さない。
正面からじっくりと顔を見ると、黒目がくっきりした瞳に通った鼻筋、きめの細かい肌がきらりと光っていてドキリとし思わず目を反らすと
「うぶだな」と鼻で笑われてムッとした。