借金のカタに取られました
あいつは、今日、友達とドライブか。心配だが、付いていくわけにはいかないし、頑丈な車を与えておいたので、大丈夫だろうと自分を言い聞かせていると電話が鳴る。
「久しぶり」と美礼は明るい声を出す。
「久しぶりだな? 何かあったか?」
美礼と話すのは、華道の教室に千那を通わせたいと頼みに行ったとき以来だ。
「ちょっと話があるから、いつものカフェでランチしない?」お嬢様育ちらしく、いつも口調は穏やかで、ゆっくりだ。
「ああ、わかった。じゃあ、十二時に」と行って電話を切った。
美礼は小学校からの幼なじみだ。
家も近く、親同士も仲良く、付き合いがあった。
航平の家でパーティーをするときは、必ず美礼も一緒に来て、二人で遊んでいた。
小学校の頃はよく遊んだが、中学生になると、思春期特有の恥ずかしさから、お互い距離を置いていた。
高校生になると、また元の関係に戻り、違うクラスだったが、廊下で会うと話をしたり、学食で一緒にご飯を食べたりした。
徒歩で五分くらいのカフェで美礼を待つ。
遠くから美礼の姿を見つける。
あまりにも身近で考えたことはなかったが、よく他の男子生徒から、可愛い、綺麗と言われていた。
航平は美礼と仲が良かったので、よく紹介して欲しいと懇願されたりした。
しかし、美礼に話をしても、彼氏はいないけれど、好きな人がいるといって、取り合わなかった。
航平の前に座り
「日替わりランチでいいかしら?」と聞き、すぐに店員を呼んで二つ注文した。
「で、話って何?」と航平は尋ねる。
「実は、春に結婚するの。それでね、友人代表で結婚式に参加して欲しいの。招待状を送りつけるなんて、水く
さいじゃない? 直接渡したくってさ」と招待状をかばんから取り出し航平は受け取った。
「そうか。おめでとう」
美礼は、にっこり微笑む。
「航平は結婚しないの?」
ランチが運ばれてきて、一瞬、会話がとまる。
「結婚ね。その前に、彼女もいないしね」
綺麗なマニキュアが塗られた指でフォークを操りながらサラダを混ぜる。
「その前に、好きな人がいたことあるの?」
ドキリとする。
「確かに。美礼、流石に鋭いな」と苦笑いする。
「航平って、ずっと彼女が切れずに居たけど、どの子とも真剣に付き合ってなかったよね。心がないというか、冷たいというか」
「美礼、今日はいつになく、キツイね」
美礼は、おしとやかで、物静かで、一緒に遊んでいても、子供らしく、大声ではしゃいだりしないので、航平は居心地が良かった。航平も同じタイプだったので、静かに本を呼んだり、ビデオを見たり、外に出ても、図鑑を持って花や虫を観察したりと、一緒に出来る相手が、美礼だけだったからだ。
「告白するけど、私、航平の事、ずっと好きだったの、知ってる?」
「嘘だろ!?」
思わず手をとめて大きな声を出した。
「やっぱりね。航平って、相手がどう思っているのか、見極めるのが苦手みたいね。今までの彼女も全部、相手から告白されているもんね。覚えてる? 高校二年の時に航平と付き合っていた愛子。あの子、航平の事なんて、好きじゃなかったのよ。別に彼氏がいたんだけど、うまくいってなくて、彼氏に嫉妬させるために、人気のあった航平に告白したのよ」
覚えている。愛子は学校の中でも美人と言われていた女で、同級生だけではなく、先輩や後輩にも告白されていた。航平は告白されて、どこかいい気になっていた。しかし、一ヶ月くらいで、よそよそしくなり、去る者追わずで、こちらからも何も聞かず、自然消滅した。
「愛子って、学校中で人気があったじゃない? なのに、彼氏だけは、自分の方をちゃんと見てくれなかったら
しいの。それが悔しかったのね、きっと。航平に告白するって言ったとき、私はとめたのよ。私は航平の味方だからね。でも、愛子は私の話に耳を貸さず、航平に告白したわ。航平が了承したって聞いて、慌てて航平に聞いたの、覚えてる?」
航平には記憶がない。
それを察したように
「愛子の事、好きなの?」と聞いたら、
「別に」って言ったのよ。
「じゃあ、どうして付き合うの?」と問いつめたら
「わからない」って。
全く、記憶がない。
毎回、こういう付き合い方しか、してこなかったので、印象に残っている女はいないのだ。
「私、呆れちゃってね。航平の事が好きだったんだけど、その時に、諦めたの。この人に恋しても、傷つくだけだ。馬鹿らしいってね。本当に、あの時、諦めて良かったわ。私じゃなくても、誰とでも、一方通行でしょ? と言うわけで、結婚できたのは、航平のおかげよ。これ、嫌みだけどね」
あまりにも鋭い指摘に、言葉が出てこないが、このまま黙っている訳にもいかず
「ごめん」と言った。
「やだぁ。高校生の頃の話よ。私も子供だったし。人を好きになれない人を、いつまでも思っていても仕方ない
から、すぐに気づいて良かったわ」
人を好きになれない……か。図星だな。
「ねぇ、航平。これ、幼なじみからの助言ね。もし、女の人と別れることがあったりした時、絶対に離したくない、離れたくないって思ったら、必ず引き留めてね。それが好きだと言うことだから。私が結婚するって聞いて、そう思わなかったでしょ? それは、航平が私に恋してないからよ」
コーヒーにミルクを入れ、スプーンをクルクルと回している綺麗な美礼の爪を眺めて聞いていた。
ランチを食べ終えて、二人は家路の方へ向かう。
「美礼、幸せになれよ」
「航平こそ」
二人は、幼い頃のように、ケラケラと笑った。
「久しぶり」と美礼は明るい声を出す。
「久しぶりだな? 何かあったか?」
美礼と話すのは、華道の教室に千那を通わせたいと頼みに行ったとき以来だ。
「ちょっと話があるから、いつものカフェでランチしない?」お嬢様育ちらしく、いつも口調は穏やかで、ゆっくりだ。
「ああ、わかった。じゃあ、十二時に」と行って電話を切った。
美礼は小学校からの幼なじみだ。
家も近く、親同士も仲良く、付き合いがあった。
航平の家でパーティーをするときは、必ず美礼も一緒に来て、二人で遊んでいた。
小学校の頃はよく遊んだが、中学生になると、思春期特有の恥ずかしさから、お互い距離を置いていた。
高校生になると、また元の関係に戻り、違うクラスだったが、廊下で会うと話をしたり、学食で一緒にご飯を食べたりした。
徒歩で五分くらいのカフェで美礼を待つ。
遠くから美礼の姿を見つける。
あまりにも身近で考えたことはなかったが、よく他の男子生徒から、可愛い、綺麗と言われていた。
航平は美礼と仲が良かったので、よく紹介して欲しいと懇願されたりした。
しかし、美礼に話をしても、彼氏はいないけれど、好きな人がいるといって、取り合わなかった。
航平の前に座り
「日替わりランチでいいかしら?」と聞き、すぐに店員を呼んで二つ注文した。
「で、話って何?」と航平は尋ねる。
「実は、春に結婚するの。それでね、友人代表で結婚式に参加して欲しいの。招待状を送りつけるなんて、水く
さいじゃない? 直接渡したくってさ」と招待状をかばんから取り出し航平は受け取った。
「そうか。おめでとう」
美礼は、にっこり微笑む。
「航平は結婚しないの?」
ランチが運ばれてきて、一瞬、会話がとまる。
「結婚ね。その前に、彼女もいないしね」
綺麗なマニキュアが塗られた指でフォークを操りながらサラダを混ぜる。
「その前に、好きな人がいたことあるの?」
ドキリとする。
「確かに。美礼、流石に鋭いな」と苦笑いする。
「航平って、ずっと彼女が切れずに居たけど、どの子とも真剣に付き合ってなかったよね。心がないというか、冷たいというか」
「美礼、今日はいつになく、キツイね」
美礼は、おしとやかで、物静かで、一緒に遊んでいても、子供らしく、大声ではしゃいだりしないので、航平は居心地が良かった。航平も同じタイプだったので、静かに本を呼んだり、ビデオを見たり、外に出ても、図鑑を持って花や虫を観察したりと、一緒に出来る相手が、美礼だけだったからだ。
「告白するけど、私、航平の事、ずっと好きだったの、知ってる?」
「嘘だろ!?」
思わず手をとめて大きな声を出した。
「やっぱりね。航平って、相手がどう思っているのか、見極めるのが苦手みたいね。今までの彼女も全部、相手から告白されているもんね。覚えてる? 高校二年の時に航平と付き合っていた愛子。あの子、航平の事なんて、好きじゃなかったのよ。別に彼氏がいたんだけど、うまくいってなくて、彼氏に嫉妬させるために、人気のあった航平に告白したのよ」
覚えている。愛子は学校の中でも美人と言われていた女で、同級生だけではなく、先輩や後輩にも告白されていた。航平は告白されて、どこかいい気になっていた。しかし、一ヶ月くらいで、よそよそしくなり、去る者追わずで、こちらからも何も聞かず、自然消滅した。
「愛子って、学校中で人気があったじゃない? なのに、彼氏だけは、自分の方をちゃんと見てくれなかったら
しいの。それが悔しかったのね、きっと。航平に告白するって言ったとき、私はとめたのよ。私は航平の味方だからね。でも、愛子は私の話に耳を貸さず、航平に告白したわ。航平が了承したって聞いて、慌てて航平に聞いたの、覚えてる?」
航平には記憶がない。
それを察したように
「愛子の事、好きなの?」と聞いたら、
「別に」って言ったのよ。
「じゃあ、どうして付き合うの?」と問いつめたら
「わからない」って。
全く、記憶がない。
毎回、こういう付き合い方しか、してこなかったので、印象に残っている女はいないのだ。
「私、呆れちゃってね。航平の事が好きだったんだけど、その時に、諦めたの。この人に恋しても、傷つくだけだ。馬鹿らしいってね。本当に、あの時、諦めて良かったわ。私じゃなくても、誰とでも、一方通行でしょ? と言うわけで、結婚できたのは、航平のおかげよ。これ、嫌みだけどね」
あまりにも鋭い指摘に、言葉が出てこないが、このまま黙っている訳にもいかず
「ごめん」と言った。
「やだぁ。高校生の頃の話よ。私も子供だったし。人を好きになれない人を、いつまでも思っていても仕方ない
から、すぐに気づいて良かったわ」
人を好きになれない……か。図星だな。
「ねぇ、航平。これ、幼なじみからの助言ね。もし、女の人と別れることがあったりした時、絶対に離したくない、離れたくないって思ったら、必ず引き留めてね。それが好きだと言うことだから。私が結婚するって聞いて、そう思わなかったでしょ? それは、航平が私に恋してないからよ」
コーヒーにミルクを入れ、スプーンをクルクルと回している綺麗な美礼の爪を眺めて聞いていた。
ランチを食べ終えて、二人は家路の方へ向かう。
「美礼、幸せになれよ」
「航平こそ」
二人は、幼い頃のように、ケラケラと笑った。