借金のカタに取られました
工事が終了するまで待ち遠しかったが、とうとう 「HOTEL MINOSHIMA(ホテルミノシマ)プレオープンの日がやってきた。
マスコミにも注目され取材陣への説明、撮影も行われた。
千那は真新しい制服に着替えて、緊張を隠せない。
ホテルのロビーはビジネスホテルとは思えない豪華な作りで、千那が生けた花が中央に飾られている。
外国人の顧客や招待客も続々と到着し、今日ばかりは本社の従業員も通訳などで狩り出されていた。
千那はコンシェルジュらしく、次から次へとお客さんが尋ねてくる質問に的確に応対していく。
忙しさの余り、初日は一瞬にして過ぎていった。航平の姿も何度か見かけたが、忙しそうでとても話す機会もなかった。
その日はカズさんも手伝いに来てくれて、案内係にあたる従業員の着物の着付けをしてくれた。
クタクタになり、その夜は三人で落ち合い、外食に出掛けた。
航平も疲れた様子だが、無事にオープンに漕ぎ着け安堵の表情を見せていた。
オープンするまでは、招待客のリスト作り、ホテルの備品、インテリアの搬入、レストランの準備などで、ここ数ヶ月間、土日も仕事に追われていた。
千那は手伝いを申し出たが、航平は
「残業代がかさむから」と冗談で返して取り合わなかった。
私が土日に航平と仕事をしていたら、周りの人間は疑うだろう、その為に断っていることはわかっていた。
レストランでは完成したホテルの話で盛り上がった。
最上階から見る浴場からの夜景、最新機器が揃ったオフィスのスペース、豪華なロビー、廊下に作られた庭園、顧
客も皆褒めてくれて、千那も嬉しかった。
こうして三人の共通の話題を話していることが、千那にとっては至福の時だった。
このまま永遠とこの時間が続いて欲しい、そうするためには航平と結婚したい、しかし気持ちを伝えると壊れてしまいそうで、胸に閉まってきた。壊れるくらいなら、思いは伝えなくても良いとさえ感じていた。
ホテルでの仕事はカズさんが言っていたとおり、毎日変化があり飽きることがなかった。コンシェルジュの仕事も、観光地の案内から、都内で行われている企業の展示会の案内まで、毎日異なっており、日々変わる情報を仕入れておくことが重要となっていた。
その為、お昼休みは時々外に出てランチを食べにいった。
これはホテルの回りにある美味しいレストランについて、宿泊客に尋ねられることも多かったからだ。
今日は、小雨でビニール傘を差してロビーを出た。
すると横から
「千那」と声がする。
その方向を見ると両親が立っていた。
あの、忌まわしい日から、一度も会ってはいない。航平にも会うなときつく言われていた。
言われなくても娘をお金で売った人達だ。一生会うつもりなんてなかった。
他の人に見られるのが嫌で、ホテルの裏側に連れて行った。
「千那、元気かい?」と心に思ってもないことを聞かれてムッとする。
「何の用?」と冷たくあしらう。
「あんた、風俗にでも行かされていると思っていたけど、ここのホテルの社長さんの会社で働いているんだね。あんなお金持ちの旦那さんなのだから、少しお金を融通してくれないかな」
顔を見ただけでそういうことだろうと察してはいたが、違うことであって欲しいと少し期待した自分が馬鹿だった。
きっとホテルのオープン時に数々の取材があったので、千那はそこに写り込んでいたのを見たのかも知れない。
「断ります」と目を合わせないで言う。
二人は顔を見合わせて次は父親が
「困っているんだからいいだろ? 少しくらい」と続ける。
「無理です。帰ってください。そして二度と来ないで」と声を荒げた。
母親は父に向かって
「あんた、もうこの子は娘でも何でもないよ。帰ろう」と歩き始めると父親が
「お前がダメなら、旦那に直接頼んでみるよ。俺たちに高金利な借金をさせて、お金で娘を買ったことも、世間
にばらすと話をしてみるよ」と吐き捨てると二人で歩き出した。
二人の背中を見ていると、憎悪が込み上げてきた。
今までずっと育児を放棄しおいて、自分達がギャンブルのために作った借金なのに、払えなくなって私を差し出した。
それも、平気な顔をして。
幼い頃、お腹が減って水道の水を飲んだこと、電気を止められて寒さで凍えたこと、借金取りに脅されたことが走馬燈のように頭をよぎる。
千那は無意識に、さしていた傘を閉じると夢中で両親の頭を殴りつけていた。
どちらを先に殴ったのか、そして何度殴ったかは覚えていない。
とにかく、体中の血が逆流した感覚だけは覚えている。
ただ、頭の中で、私はどうなってもいい、航平を傷つけることだけは許さないと強く思った。
気づくと傘は折れ曲がり、足元に転がっており、千那は通りすがりの男性二人に取り押さえられていた。
マスコミにも注目され取材陣への説明、撮影も行われた。
千那は真新しい制服に着替えて、緊張を隠せない。
ホテルのロビーはビジネスホテルとは思えない豪華な作りで、千那が生けた花が中央に飾られている。
外国人の顧客や招待客も続々と到着し、今日ばかりは本社の従業員も通訳などで狩り出されていた。
千那はコンシェルジュらしく、次から次へとお客さんが尋ねてくる質問に的確に応対していく。
忙しさの余り、初日は一瞬にして過ぎていった。航平の姿も何度か見かけたが、忙しそうでとても話す機会もなかった。
その日はカズさんも手伝いに来てくれて、案内係にあたる従業員の着物の着付けをしてくれた。
クタクタになり、その夜は三人で落ち合い、外食に出掛けた。
航平も疲れた様子だが、無事にオープンに漕ぎ着け安堵の表情を見せていた。
オープンするまでは、招待客のリスト作り、ホテルの備品、インテリアの搬入、レストランの準備などで、ここ数ヶ月間、土日も仕事に追われていた。
千那は手伝いを申し出たが、航平は
「残業代がかさむから」と冗談で返して取り合わなかった。
私が土日に航平と仕事をしていたら、周りの人間は疑うだろう、その為に断っていることはわかっていた。
レストランでは完成したホテルの話で盛り上がった。
最上階から見る浴場からの夜景、最新機器が揃ったオフィスのスペース、豪華なロビー、廊下に作られた庭園、顧
客も皆褒めてくれて、千那も嬉しかった。
こうして三人の共通の話題を話していることが、千那にとっては至福の時だった。
このまま永遠とこの時間が続いて欲しい、そうするためには航平と結婚したい、しかし気持ちを伝えると壊れてしまいそうで、胸に閉まってきた。壊れるくらいなら、思いは伝えなくても良いとさえ感じていた。
ホテルでの仕事はカズさんが言っていたとおり、毎日変化があり飽きることがなかった。コンシェルジュの仕事も、観光地の案内から、都内で行われている企業の展示会の案内まで、毎日異なっており、日々変わる情報を仕入れておくことが重要となっていた。
その為、お昼休みは時々外に出てランチを食べにいった。
これはホテルの回りにある美味しいレストランについて、宿泊客に尋ねられることも多かったからだ。
今日は、小雨でビニール傘を差してロビーを出た。
すると横から
「千那」と声がする。
その方向を見ると両親が立っていた。
あの、忌まわしい日から、一度も会ってはいない。航平にも会うなときつく言われていた。
言われなくても娘をお金で売った人達だ。一生会うつもりなんてなかった。
他の人に見られるのが嫌で、ホテルの裏側に連れて行った。
「千那、元気かい?」と心に思ってもないことを聞かれてムッとする。
「何の用?」と冷たくあしらう。
「あんた、風俗にでも行かされていると思っていたけど、ここのホテルの社長さんの会社で働いているんだね。あんなお金持ちの旦那さんなのだから、少しお金を融通してくれないかな」
顔を見ただけでそういうことだろうと察してはいたが、違うことであって欲しいと少し期待した自分が馬鹿だった。
きっとホテルのオープン時に数々の取材があったので、千那はそこに写り込んでいたのを見たのかも知れない。
「断ります」と目を合わせないで言う。
二人は顔を見合わせて次は父親が
「困っているんだからいいだろ? 少しくらい」と続ける。
「無理です。帰ってください。そして二度と来ないで」と声を荒げた。
母親は父に向かって
「あんた、もうこの子は娘でも何でもないよ。帰ろう」と歩き始めると父親が
「お前がダメなら、旦那に直接頼んでみるよ。俺たちに高金利な借金をさせて、お金で娘を買ったことも、世間
にばらすと話をしてみるよ」と吐き捨てると二人で歩き出した。
二人の背中を見ていると、憎悪が込み上げてきた。
今までずっと育児を放棄しおいて、自分達がギャンブルのために作った借金なのに、払えなくなって私を差し出した。
それも、平気な顔をして。
幼い頃、お腹が減って水道の水を飲んだこと、電気を止められて寒さで凍えたこと、借金取りに脅されたことが走馬燈のように頭をよぎる。
千那は無意識に、さしていた傘を閉じると夢中で両親の頭を殴りつけていた。
どちらを先に殴ったのか、そして何度殴ったかは覚えていない。
とにかく、体中の血が逆流した感覚だけは覚えている。
ただ、頭の中で、私はどうなってもいい、航平を傷つけることだけは許さないと強く思った。
気づくと傘は折れ曲がり、足元に転がっており、千那は通りすがりの男性二人に取り押さえられていた。