借金のカタに取られました
マンションに車を連ねて帰ってくると、カズさんが心配そうに玄関の前で立っていた。
千那はカズさんを見つけて
「ごめんなさい。心配かけて」と車から降りて、頭を下げた。
「いいのよ。千那さんが無事なら。良かったわ。お腹すいたでしょ? 三人でいつものようにご飯を食べましょう」と軽くハグをした。
テーブルには既に料理が並べられており、カズさんはスープを温めてくれる。三人でテーブルに着くと航平が話し始める。
「カズさん、俺、千那と結婚したよ」
「本当なの? 千那さん、本当?」
驚いて目を大きく見開いている。
「はい。本当です。先程、区役所に行って届けを出してきました」
カズさんは椅子から立ち上がり、千那を抱きしめた。
「良かった。本当に良かった。おめでとう」
「カズさん、ありがとうございます」
カズさんは自分の椅子に戻ると、再び泣き出した。
それにつられて千那も泣き出す。
航平は
「参ったな」と苦笑いした。
その夜、
「お前を抱きたい」と真っ直ぐに見つめられ、千那はコクリと頷いた。
「俺、この台詞初めてだな」と照れたように笑う。
そうして、二人は長い時間を埋めるかのように抱き合った。
翌日、航平が千那を誘って繁華街へと出掛けた。
結婚後も変わらず、航平は予定を言わずスタスタと前を歩いている。
着いたお店はジュエリーショップだった。
「好きなのを選べ。婚約指輪だ。順番が逆だけどな」
「そんな……」
「また遠慮しているのか? まったく」
今まで他人に 「おねだり」というのは、したことがなくためらってしまう。
育った環境が大きく起因しており他人に 「買って貰う」という感覚が存在していない。
多くの幼い子供は両親に一番始めに 「おねだり」をするだろう。
しかし、千那は毎日食べることに必死だったので、食べ物以外、欲しい物は時々あったが、優先順位的には低く、それが手に入っても食べられないのならば、必要なかった。
あの両親の元で育つと、諦めという方法が身に付いた。
千那はいくつものことを諦めて生きてきた。
普通の食卓、彩りのあるお弁当、綺麗な洋服、旅行、団欒、習い事。それら、全てを叶えてくれたのは航平だった。
これ以上、何かを貰うのは申し訳ない。もう充分満たされている。
航平は千那の手を引っ張り、ガラスケースの前まで連れてきて店員さんに
「今の若い子が好む婚約指輪をいくつかチョイスしてくれ。予算は……」と店員に顔を近づけて耳打ちする。
店員さんは、嬉しそうにガラスケースを開けて慎重に選んでいる。
整然とならんだ眩しい指輪を見ているだけで夢心地だったので、ここから選ぶということがなかなか出来ず、痺れを切らした航平が
「よし、俺が選んでやる。これとこれ、どっちがいい? 二択は出来るだろ?」
一つは中央に大きなダイヤがあり、その回りに小さなダイヤがぐるりと囲むように配置され、もう一つはそのダイ
ヤがハート型になっていてリングの部分にねじりの曲線があるものだった。
千那は、漫画やドラマで見ていたオーソドックスな形の指輪を選んだ。
「ありがとうございます」と店員さんはジュエリーボックスに入れようとする手を制して
「このまま、もらって行きます」と指輪を受け取り、千那の手を取り左手薬指にはめた。
店員さんの前で、千那は赤面し下を向く。
「おめでとうございます」と笑顔で店員さんはお祝いしてくれた。
「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。
お店を出ると、航平が千那に手を出す。
どういう意味かわからず戸惑っていると手を取られて、その手を握りしめた。
これが、初めて二人が手を繋いだ瞬間だった。
舞い上がっているところに
「千那、映画館に行ったことあるか?」興奮して声が出せず首を横に振る。
その仕草を見て千那の手を引き、スタスタと歩き出した。
映画館は千那にとっては、高くて入ったことがなかった。
娯楽にお金を使うなんて、勿体なくて出来なかったのだ。
いくつかのポスターを一通り見て
「これだな」と一人で納得し、慣れた様子でポップコーンとジュースを二つ買って席に着く。
映画館といえば、席が一人一つずつあると思っていたのに、二人がけのソファーのようになっている。
不思議に思いながら席に着くと
「ここはカップルシートという場所だ。ほら、あっちは一人ずつだろ?」
感心して見ていると
「お前といると何でも新鮮で楽しいよ」と笑う。
「馬鹿にしているのですか?」と怒った振りをする。
「まぁまぁ、ポップコーンでも食え」と相手にされない。
大きな画面で映画を見るのは初めてで、その迫力に圧倒される。
航平は、どっしりと背もたれにもたれかかった余裕のある態度で見ていたが、千那は前のめりに鑑賞した。
時々、航平が手を握ってきてドキドキしストーリーに集中出来なかったが、何もかも初体験で楽しい時間だった。
映画館を出ると
「クレープ食ったことあるか?」
「ないです」と言うと
「本当にお前、女子高生だったのか?」と笑いながら茶化す。
「もう」と言い終わる前に、手を引っ張られてお店に向かう。
ベンチに座ってクレープを食べていると、幸せが込み上げてくる。
映画を見てクレープを食べて、そのクレープを食べている手を見ると指輪が光っている。
恋人のようなデートも初めてで、もうこのまま死んでも良いとさえ感じていた。
千那はカズさんを見つけて
「ごめんなさい。心配かけて」と車から降りて、頭を下げた。
「いいのよ。千那さんが無事なら。良かったわ。お腹すいたでしょ? 三人でいつものようにご飯を食べましょう」と軽くハグをした。
テーブルには既に料理が並べられており、カズさんはスープを温めてくれる。三人でテーブルに着くと航平が話し始める。
「カズさん、俺、千那と結婚したよ」
「本当なの? 千那さん、本当?」
驚いて目を大きく見開いている。
「はい。本当です。先程、区役所に行って届けを出してきました」
カズさんは椅子から立ち上がり、千那を抱きしめた。
「良かった。本当に良かった。おめでとう」
「カズさん、ありがとうございます」
カズさんは自分の椅子に戻ると、再び泣き出した。
それにつられて千那も泣き出す。
航平は
「参ったな」と苦笑いした。
その夜、
「お前を抱きたい」と真っ直ぐに見つめられ、千那はコクリと頷いた。
「俺、この台詞初めてだな」と照れたように笑う。
そうして、二人は長い時間を埋めるかのように抱き合った。
翌日、航平が千那を誘って繁華街へと出掛けた。
結婚後も変わらず、航平は予定を言わずスタスタと前を歩いている。
着いたお店はジュエリーショップだった。
「好きなのを選べ。婚約指輪だ。順番が逆だけどな」
「そんな……」
「また遠慮しているのか? まったく」
今まで他人に 「おねだり」というのは、したことがなくためらってしまう。
育った環境が大きく起因しており他人に 「買って貰う」という感覚が存在していない。
多くの幼い子供は両親に一番始めに 「おねだり」をするだろう。
しかし、千那は毎日食べることに必死だったので、食べ物以外、欲しい物は時々あったが、優先順位的には低く、それが手に入っても食べられないのならば、必要なかった。
あの両親の元で育つと、諦めという方法が身に付いた。
千那はいくつものことを諦めて生きてきた。
普通の食卓、彩りのあるお弁当、綺麗な洋服、旅行、団欒、習い事。それら、全てを叶えてくれたのは航平だった。
これ以上、何かを貰うのは申し訳ない。もう充分満たされている。
航平は千那の手を引っ張り、ガラスケースの前まで連れてきて店員さんに
「今の若い子が好む婚約指輪をいくつかチョイスしてくれ。予算は……」と店員に顔を近づけて耳打ちする。
店員さんは、嬉しそうにガラスケースを開けて慎重に選んでいる。
整然とならんだ眩しい指輪を見ているだけで夢心地だったので、ここから選ぶということがなかなか出来ず、痺れを切らした航平が
「よし、俺が選んでやる。これとこれ、どっちがいい? 二択は出来るだろ?」
一つは中央に大きなダイヤがあり、その回りに小さなダイヤがぐるりと囲むように配置され、もう一つはそのダイ
ヤがハート型になっていてリングの部分にねじりの曲線があるものだった。
千那は、漫画やドラマで見ていたオーソドックスな形の指輪を選んだ。
「ありがとうございます」と店員さんはジュエリーボックスに入れようとする手を制して
「このまま、もらって行きます」と指輪を受け取り、千那の手を取り左手薬指にはめた。
店員さんの前で、千那は赤面し下を向く。
「おめでとうございます」と笑顔で店員さんはお祝いしてくれた。
「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。
お店を出ると、航平が千那に手を出す。
どういう意味かわからず戸惑っていると手を取られて、その手を握りしめた。
これが、初めて二人が手を繋いだ瞬間だった。
舞い上がっているところに
「千那、映画館に行ったことあるか?」興奮して声が出せず首を横に振る。
その仕草を見て千那の手を引き、スタスタと歩き出した。
映画館は千那にとっては、高くて入ったことがなかった。
娯楽にお金を使うなんて、勿体なくて出来なかったのだ。
いくつかのポスターを一通り見て
「これだな」と一人で納得し、慣れた様子でポップコーンとジュースを二つ買って席に着く。
映画館といえば、席が一人一つずつあると思っていたのに、二人がけのソファーのようになっている。
不思議に思いながら席に着くと
「ここはカップルシートという場所だ。ほら、あっちは一人ずつだろ?」
感心して見ていると
「お前といると何でも新鮮で楽しいよ」と笑う。
「馬鹿にしているのですか?」と怒った振りをする。
「まぁまぁ、ポップコーンでも食え」と相手にされない。
大きな画面で映画を見るのは初めてで、その迫力に圧倒される。
航平は、どっしりと背もたれにもたれかかった余裕のある態度で見ていたが、千那は前のめりに鑑賞した。
時々、航平が手を握ってきてドキドキしストーリーに集中出来なかったが、何もかも初体験で楽しい時間だった。
映画館を出ると
「クレープ食ったことあるか?」
「ないです」と言うと
「本当にお前、女子高生だったのか?」と笑いながら茶化す。
「もう」と言い終わる前に、手を引っ張られてお店に向かう。
ベンチに座ってクレープを食べていると、幸せが込み上げてくる。
映画を見てクレープを食べて、そのクレープを食べている手を見ると指輪が光っている。
恋人のようなデートも初めてで、もうこのまま死んでも良いとさえ感じていた。