借金のカタに取られました
永遠の誓い
 空港で航平とカズさんを待つ。

ガラガラとスーツケースを二つ転がして、カズさんがやって来た。

「カズさん、荷物多いよ」と航平が苦笑いしている。

「初めての海外旅行で色々持ってきてしまったわ」

それを聞き、千那は

「カズさん、私も初めてですよ。お揃いですね」と笑いかける。

「迷子になるんじゃないぞ」と子供を諭すように、真剣な顔で言う航平に二人で笑う。

座席に座ると、早速カズさんはヨーロッパのガイドブックを開いて、真剣に読み込んでいる。

航平はイヤホンをつけて、音楽を聴きながら、仕事の資料を読む。

機内サービスの時間が来て、食事をしながらカズさんが千那に話しかける。

「千那さん、本当にありがとう。私まで誘っていただいて」

一緒に来て欲しいと話したときは、なかなか承諾してくれなかった。二人の邪魔をしてはいけないと言って、頑なに拒否したが、千那が

「ガスさんが行かないなら、行かない」と言って無理矢理説得した形だ。

カズさんは、母親のような存在、いや、それ以上の存在になっている。様々なことを教えて貰い、学び、相談にも
のってくれた。

航平が、大学時代に過ごしたイギリスを見て貰いたかったし、何よりも、カズさんと一緒に見たかった。

「私こそ、強引に誘ってすみません。でも、どうしても三人で来たかったのです」

カズさんは、静かに千那の手を握った。


目的地に着いたが、もう日は暮れていたので、ホテルで食事をし、明日からのスケジュールを相談することにした。

航平は、時々、牧田さんとテレビ電話をしながら仕事の話をしたが、それ以外は、二人の我が儘なスケジュールに困りながらも、メモをして計画を立ててくれた。

 翌日は、航平が四年間過ごした大学を見学した。敷地は広大で、歴史的な建物も多く、まるでタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。

ここで、航平が四年間過ごしたと考えると、心にしみいるものがあった。

航平は、よくこの芝生で寝転がっていた、このダイニングで食事をしていたと、学生時代の思い出を語ってくれ
た。

ポケットからメモを出し、航平は二人に言う。

「えっと、次はカズさんが行きたがっていた、セント・バーソロミュー・ザ・グレート教会に行くぞ」

この教会は、ロンドンで最古の教会で、映画のロケとしても使用されたことがあり、千那もカズさんにガイドブッ
クの写真を見せられて、是非行きたいと思っていたところだ。

「カズさん、教会だなんて、ロマンチストですね」と言うと

「知らなかったのですか?」という答えに、二人で笑う。

教会に着くと、航平と千那に向かって

「早く、着替えてきてください」とにっこり笑う。

「え?」と航平と声が重なる。

「これから、二人の結婚式ですよ」

航平と顔を見合わす。

「昨日、こちらに荷物を送っておきましたので、着いているはずです。ウエディングドレスとタキシード。日本から持ってきたのですよ」

カズさんの荷物の多さはコレだったのだ。

事態を飲み込めない二人の背中を押しながら、カズさんは、部屋に案内する。

そこには衣装が飾られてあった。

昔、どんなウエディングドレスを着たいかと、カズさんと話しをしたことがあったが、千那がその時に話したドレスが目の前にある。

「カズさん……」

言葉にならない。

「母親代わりとして、どうしても二人に挙式をして貰いたくて。私の我が儘だと思って、着替えてください」
航平は、カズさんを抱きしめた。

二人は着替えて、カズさんが参列する中、結婚式を行った。

そこで、二人は永遠の愛を誓った。

 翌日は、千那が希望したフランスのセーヌ川や凱旋門、エッフェル塔、古城等へ観光に行った。

「流石、お上りさんコースだな」と航平はからかったが、優秀なガイドさんのように、それぞれの名所の説明を
してくれて、憧れの地にうっとりとした。

その後、カズさんの希望でヴェネチアへ向かった。

街に着いたときには、夕方になっていて、街頭や住宅街は一斉にライトがつき、その明かりが川に反射し、息をの
む幻想的な景色を見ることが出来た。

カズさんは、カバンから何かを出して涙ぐんでいる。

「カズさん、これって」と航平が驚きの声をあげる。

「これは、航平さんが、学生の頃、私に送ってくれた絵はがきです」

千那が覗き込むと、そこには

「今、夏休みでヴェネチアに来ています。感動するほど美しい景色です。いつか、カズさんにも見て貰いたいです」とお世辞にも綺麗と言えない字で書いてあった。

少し色あせた、その絵はがきの写真は、水の都ヴェネチアらしく、何艘かの船が浮かんでいて、美しい町並みが印刷されていた。

航平は、照れて後ろを向いている。

その背中に向かって

「航平さん、ありがとうございます。念願の景色が実際に見ることが出来ました」とカズさんが言うと、航平は

振り返り

「どういたしまして」と照れ隠しに、笑いながら言った。

その日は、運河沿いのホテルに泊まり、遅い時間まで、フロントの窓から綺麗な景色を三人で眺めていた。

カズさんは一人部屋に帰り、千那と航平は二人で部屋に戻る。

アンティーク家具で揃えられた部屋は、重厚な雰囲気で、窓からは教会も見える。

千那は、窓から景色を眺めながら、幸せを感じていた。

その後ろから、航平は千那を包み込むように抱き

「愛している」と耳元でささやく。

千那は振り返り

「航平にとって、愛するってどういうことですか?」

冗談ではない、真面目な眼差しに航平は気づき、真剣に目を見て答える。

「愛するとは、相手を思いやることだ。よく、好きという感情の最上級だと思っている人がいるが、俺は違うと
思っている。相手を思いやるというのは、性別も年齢も関係ない。相手のことを思い、考え、行動し、願う。だから、俺は、お前も愛しているし、カズさんのことも、愛している。会社の事も愛しているし、平和も愛している」
ニコリと笑う。

「千那は、どうなんだ?」

少し考えて

「難しいけど、私も航平と同じで、航平のことも、カズさんの事も愛しています。でも、何が違うって言われてもわからない。ただ、大切だし、失いたくない。うーん、何が違うんだろう」

首をかしげると

「違いを教えてやろうか」と言ってキスをする。

「もう、航平」と言い終わる前に、再びキスをされ、口をふさがれた。

千那は航平の首の後ろに手を回し、自分から求める。

薄暗い部屋のベッドに倒れ込む二人。

航平は千那の上に覆い被さり

「俺のこと、愛しているか?」と聞く。

「愛しています」と答えると

「じゃあ、証明してくれ」と真顔で言う。

千那は、航平の首に手を回し、熱烈なキスをする。

「これでいい?」

いつにもなく大胆な千那に、航平は戸惑いつつ、胸が熱くなる。

「航平のこと、愛しているからです。抱いてください」

「今までに、何人にも言われたが、千那に言われるのが、一番嬉しいよ」と強く抱きしめた。

いつも冷静な航平が、激しく千那を求め、千那もそれに応えた。

航平の腕枕に頭を預けながら、

「いったい、何人の女性を抱いてきたの?」と拗ねたように聞く。

「うーん、わからない。でも、千那が一番だから安心しろ」

「私を最後にしてくれますか?」

「もちろんだ。そして、お前は、俺が最初で最後の男だ。わかったか?」

「はい」




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